10月7日、パレスチナのガザ地区を支配するイスラム主義組織ハマスがイスラエルを奇襲攻撃し、イスラエル領内に2千発を超えるミサイル弾を打ち込んだ。イスラエルはただちに報復の軍事行動を開始、戦争状態となった。一ヶ月たった今、戦死者は1万1千人(ガザ地区1万人強、イスラエル側1,400人)を超えたが、イスラエル軍はガザ市での市街戦を本格化させ、戦争はまだ続いているので(11月8日時点)、犠牲者数はさらに増えることが懸念されている。
昨年2月ロシアの侵略によるウクライナ戦争が始まって1年8ヶ月。戦争の終わる見通しは立っていない。ウクライナの戦争も終わらないところにもう一つ戦争が発生し、世界は戦争の拡大する悪い時代に入っているのではないかとの不安が広がっている。
人類史は戦争に満ちている。自らの生存のため(生存圏を守るため、拡張するため)に、共同体、民族、国家は戦争し、また平和に共存してきた。世界の歴史は、異なる一神教を信じる共同体や民族間の平和共存は極めて難しいことを示している。パレスチナ(イスラム教)とイスラエル(ユダヤ教)は、異なる一神教のもと、両者の複雑な歴史が積み重なって平和共存が絶望的になっている。
2千年間ディアスポラ(民族離散)で生きてきたユダヤ人は、第二次世界大戦後パレスチナの地に悲願の自国イスラエルをつくることができた。1947年国連が主導し、パレスチナの地をユダヤ人とパレスチナに住むアラブ人(=パレスチナ人)の2国に分け、国際管理のもとに置いた。パレスチナの土地でユダヤ人が占める割合は全人口の3分の1だったが、56%の土地が与えられた。
翌1948年ユダヤ人がイスラエル建国を宣言。パレスチナの土地を取られ、勝手に国をつくられたと思う周辺のアラブ諸国は建国の翌日イスラエルに攻め込み、第一次中東戦争となった。戦争はイスラエルが勝ち、国連で認められた土地を死守した。1967年第三次中東戦争に圧勝したイスラエルは、パレスチナの土地のすべてを事実上支配下に置いた(国連は認めていない)。イスラエルの支配下にあるパレスチナ人の解放を目的に設立されたPLOの第3代議長アラファートは、武装闘争路線を放棄し、1993年イスラエルとの間に暫定自治協定を結んだ。こうしてヨルダン川西岸地区とガザ地区はパレスチナ暫定自治政府の統治する自治区となった。その後ガザ地区ではイスラム主義組織ハマスが政治力を強め、ガザ地区を実効支配するようになって今日に至っている。
イスラエルとパレスチナ人との争いはイスラエルが勝ち続けてきた。私はどうしても敗者のパレスチナ人の歴史に同情する気持ちが沸く。そして、過去中東地域を支配した欧州帝国主義国のエゴを強く感じている。
ところで、イスラム教徒の人々は日本人をどう思っているのだろうか。意外に思うかもしれないが、イスラム諸国は概して日本人に親近感をもち、近代日本のやってきたことを肯定的に評価し、敬意さえ懐いている。イスラムで最も大切な善は誠実であり、日本人は誠実と評価されている。
イスラムの人々の肯定的な日本人観は貴重だと思う。悲惨なパレスチナ・イスラエル戦争を見て、日本が何かできることはないものかと思う。
(令和5年11月15日)
神田 淳(かんだすなお)
元高知工科大学客員教授。
著作に『すばらしい昔の日本人』(文芸社)、『持続可能文明の創造』(エネルギーフォーラム社)、『美しい日本の倫理』などがある。 |