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1098号 (2023年5月1日発行) |
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雪月花 |
あの大谷翔平選手が、WBCに出発する前に読み素晴らしい成果を挙げたと言われて注目された中村天風師の「心身統一法」が話題を呼んでいる。中村天風師は日露戦争の軍事密偵を命がけで完遂し無事帰国も肺結核を発病する。100年前当時、肺結核は治療が極めて困難な死病であり、それを克服するために欧米へと渡った。果たすことはできなかったが、エジプトで偶然ヨーガの聖者・カリアッパ師と出会い教えを請うた。2年9カ月の修行が実を結び健康を取り戻した。この体験から「心身統一法」を確立した。直接的であれ間接的であれ天風師の教えを受けた人々の中から世のため人のため貢献した人が数多く輩出したのも事実である、松下幸之助氏(松下電器創始者)、稲盛和夫氏(京セラ元社長)、越後正一氏(伊藤忠元社長)らはよく知られている。受刑者に塀の内側で多く読まれるのが天風ものだと聞いたこともある。布教100年を迎える今日改めて中村天風師の研究が目につく。その一つ「中村天風と神心統一法」がプレジデント社から出版された。著者は元陸上自衛隊西部方面幕僚長の福山隆陸将で1995年の地下鉄サリン事件で身を挺して指揮を執ったあの人物である。天風師の思想は人間の「心・思考」が人生の一切を創る、肉体も環境も、すべてが人の「心」によって創られるとしているが、著者はこれをベースにして「神心統一法」を創出した。「神心統一法」は著者の造語で天風師の「心」と「身」を統一することを目指した「心身統一法」に更に「神」を加えたいと言うことだ。宗教的な表題になってはいるが、著者が自衛官当時にいくつも体験した「統一法」に当てはまる出来事が具体的に書かれている。陸幕防衛班に配属になった時突然心臓が激しく鼓動を始め、このまま死ぬような不安を覚えたが「心」の問題と捉えて乗り切ったこと、それまでは九州補給処長(陸将補)は最後のポストと言われていたが奇跡の人事で西部方面幕僚長に栄転し陸将に昇進したこと、韓国防衛駐在官の時のスパイ事件の試練、神の配慮としか考えられない事など読み物としても十分に楽しめる。中村天風ファンには新しい角度からの入門書になりそうだ。 |
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