自衛隊ニュース

英霊に思いを馳せる
学生が旧呉海軍墓地を研修
<海自呉教育隊>
海上自衛隊呉教育隊(司令・渡邉雄一1海佐)は、7月15日~29日の間、第17期一般海曹候補生課程学生210名(4個分隊)および第378期練習員課程学生85名(2個分隊)の計305名(6個分隊)の広島県呉市長迫公園(旧呉海軍墓地)史跡研修を行った=写真。
本研修で、海軍の歴史を学び、海上自衛官としての自己修養の資とするとともに、海軍ゆかりの地である呉に関する理解を深めた。
現地では、財団法人呉海軍墓地顕彰保存会の平岡武夫常務理事から、明治23年の呉海軍鎮守府開庁以降、犠牲となった海軍軍人ならびに軍属の埋葬地としての呉海軍墓地の沿革等について説明を受け、学生は興味津々に聞き入った。
旧呉海軍墓地を初めて訪れた学生は、「海軍で活躍された13万柱の英霊のご冥福を祈念するとともに、感謝の気持ちしかありません」と話し、大きな誇りと志を胸中に刻み、凛とした表情で長迫公園を後にした。
日米サイバー共同対処訓練
初の海外派遣訓練
<海自システム通信隊群>
6月27日から29日の3日間、海上自衛隊システム通信隊群(群司令・近藤匡1海佐=市ヶ谷)は、米海軍情報戦司令部ハワイ支部(NIOC-H)とともに、令和4年度第2回日米共同訓練(サイバー共同対処訓練)を実施した。
本訓練は、海上自衛隊においてサイバー事案対処を行う保全監査隊CPT(Cyber Protection Team)の戦術技量および米海軍CPTとの相互運用性の向上を図る目的で実施しているものであり、これまでに計5回の共同訓練が実施されている。なお、海上自衛隊のサイバー関連対処部隊が海外派遣訓練を実施し、NIOC-H(本部)と共同訓練を実施したのは今回が初めてである。
本訓練では、日米双方の高度なサイバーセキュリティ技量を有する隊員同士がサイバー情勢に関する認識を共有、現場レベルの意見交換を実施し交流を深めるとともに、米海軍施設の現実的な訓練環境下でサイバー空間防護の一連の対処を協働して演練した。
また、本訓練期間中、RIMPAC2022に参加するためハワイに在泊中の護衛艦「いずも」に日米双方のCPTが乗艦し、艦内の実環境下におけるサイバー攻撃等対処の演練を実施し、実効的なサイバー攻撃等対処の手順についても確認した。
今回の訓練に参加し保全監査隊CPTを指揮した保全監査隊司令の中野聡1海佐は「米国ハワイに在籍する高度なサイバーセキュリティ能力を持った米海軍と実地に協働し、高難度なサイバー攻撃等対処訓練を実施できた成果は多大であり、海自のサイバー攻撃等対処能力を大きく進化させ、更なる課題や能力向上の方向性を導出する機会となった。今後も定期的な共同訓練を継続し日米双方の能力向上を深化させ、いかなる事態にも対処できるようさらに技量向上に努める」と述べた。
読史随感
神田淳
<第109回>
稲盛和夫さんの逝去に思う
稲盛さんが8月24日亡くなった。90歳だった。稲盛和夫という現代の偉人の逝去の報に接して、日本の国力低下の流れを感じるのは私だけだろうか。昭和の終わり土光敏夫が亡くなったとき、中曽根康弘が土光さんを、戦後日本の最高の人だったと評した。私は稲盛さんを、平成日本の最高の人だったと評したい。
稲盛和夫(1932-2022)は鹿児島県生まれ。1959年27歳のとき、京都セラミック株式会社(現・京セラ)を創業。グループ従業員数8万3千人、連結売上高1兆8千億円の世界的企業に育てた。1984年第二電電(現・KDDI)を設立して会長に就任。日本の通信事業の健全な発展に寄与した。また、2010年78歳のとき、当時の民主党政権から、経営破綻した日本航空の再建を強く請われて会長に就任。社員の意識改革を進め、3年経たずして見事に日航の再建を果たした。
稲盛さんは昭和の松下幸之助のように「経営の神様」と評されたが、その経営哲学は「人間として何が正しいか」の判断基準を根本におき、人として当然の根源的な倫理観・道徳観に従って、誰にも恥じることのない公明正大な経営や組織運営を行うものだった。稲盛さんは後年、自分の成功に理由を求めるならば、ただ一つ、「人間として正しいことを追及する」という単純な、強い指針があったことですと述懐する。
稲盛さんは利他の心による経営を説いた。利他の心とは、仏教でいう「他に善かれかし」という慈悲の心、「世のため、人のために尽くすこと」で、ここにビジネスの原点があるという。事業活動においては当然利益を求めなければならないが、その利は正しい方法で得られる利益でなければならず、事業の最終目的は社会に役立つことにある。会社の経営は利他行であり、利他行がめぐりめぐって自社の利益も広げることにもなる。稲盛さんが偉大だったのは、弱肉強食のビジネス界で利他などきれい事に過ぎないとの批判がある中、利他による経営を追及し、実践して大きな成功をおさめたことにある。
稲盛さんは自分がなすべき仕事に没頭し、工夫をこらし、努力を重ね、一日一日を「ど真剣」にーーー「ど」がつくほど真剣にーーー生きなくてはならないと人に説き、自分もそのように生きた。稲盛さんの仕事、事業、経営は常に真剣そのものだった。
稲盛さんはまた、「思うこと」の重要性を説いた。本気で物事を成し遂げようとするならば、それを強烈な願望として、寝ても覚めても強烈に思い続けるが不可欠という。願望の大きさ、高さ、深さ、熱量が成否を決める。企業経営、新規事業、新製品開発の成就の原動力は強烈な「思い」である。
稲盛さんの経営哲学は、経営の神様松下幸之助と共通点があると言われる。私は二人の宇宙観に共通点を見いだす。
松下は、宇宙に存在するいっさいのものは、絶えず生成発展しており、これが宇宙の本質で、自然の理法なので、ものごとはこの理法に則っているならば、成功するようになっていると言う。稲盛は、宇宙には森羅万象あらゆるものを進化発展する方向に導こうとする流れ、すべてのものを慈しみ育てていく意志のようなものが存在しており、我々の思いと行動がこの宇宙の意志に沿ったとき、成長発展の方向に導かれ、成功するという。
利他行を実践し、魂の品格を高めるのが人生の目的だと言う稲盛さんは、まさに大乗仏教の菩薩だったと私は思う。
(令和4年9月15日)
神田 淳(かんだすなお)
元高知工科大学客員教授。著作に『すばらしい昔の日本人』(文芸社)、『持続可能文明の創造』(エネルギーフォーラム社)、『美しい日本の倫理』などがある。