自衛隊ニュース

新たな門出 卒業式・修了式
防衛医科大学校
3月5日、防衛医科大学校(四ノ宮成祥学校長)は、医学科第43期及び看護学科第5期学生の卒業式を実施した。「自衛隊大規模接種センター」の運営等で関心が高まる「自衛隊衛生」の担い手達が、緑多き所沢の学び舎を巣立っていった。
式典には島田和久防衛事務次官、鈴木健彦衛生監、吉田圭秀陸幕長、山村浩海幕長、井筒俊司空幕長が陪席し、部内来賓者と共に学生達の門出を見守った(岸大臣、石川武報道官および山崎統幕長は直前のミサイル発射事案への対応のため急遽欠席)。
医学科75名
看護学科117名が卒業
今年度の卒業生は、医学科75名、看護学科自衛官候補71名、看護学科技官候補46名。うち任官辞退は技官候補2名のみだった。
一人ひとりが名前を呼ばれ、溌溂とした返事が会場に響く。卒業証書授与は井階正惇学生(医学科)、井上眞里奈学生(看護学科自衛官候補)および江口実奈美学生(看護学科技官候補)が代表して受け取った。続く学位記授与は森田諒学生(医学科)と廣瀬加奈学生(看護学科)が代表して受け取った。医師の誓いを五十嵐靖明学生が、看護の誓いを原雪乃学生が力強く宣誓。他の学生も心の中で誓いを立てた。
自衛隊衛生の中核として
四ノ宮学校長は式辞で「在校中に出会った様々な人との経験全てが大きな財産です。防衛医科大学校の卒業生という誇りを持ち、母校を愛しその発展を願い自身の夢を実現させてください」とはなむけの言葉を贈った。
岸大臣の訓示(島田事務次官代読)では、ロシアによるウクライナ侵略を「これが厳しい国際関係、そして安全保障の現実です。諸君は医療人としての立場があるとともに、自衛官として国を守る存在です。他国の有事に自国の現状を顧みてください」と問いかけ、「諸君の目の前の患者、自衛隊員・市中の一般人であってもその人々を救うことは国を救うことにつながっていることを忘れないでください」と諭した。
卒業生答辞は学生隊隊長の内藤貴仁学生(医学科)が述べ、「ここで学んだ全てを糧としながら『自衛隊衛生』の中核を担う医師たる幹部自衛官として任務に邁進していくことを、感謝の意をこめて自らの背中で示していきます」と決意を表明した。
卒業式に引き続き「任命・宣誓式」と「人事発令伝達式」が行われた。これにより卒業生たちは晴れて任官となり、自衛隊員としての一歩を踏み出した。
今年度もライブ配信
コロナ禍のため今年度も親族等はインターネット配信で我が子らの晴れ姿を見守った。桑木竣平学生(医学科)と多武野明日香学生(看護学科自衛官候補)が代表して涙あり笑いありの学生生活を振り返りつつ、カメラの先にいる父母にむかって感謝の想いが溢れるメッセージを贈った。親御さん達は、頼もしく成長した我が子の姿に万感胸に迫るものがあっただろう。
恒例、海幕長との懇談
式後、海上自衛隊に任官した卒業生たちは、山村海幕長との懇談会に出席した。「ようこそ海上自衛隊へ」笑顔で迎える山村海幕長。海上自衛隊の一員としての自覚が深まる和やかな時間を過ごした。
ノーサイド
北原巖男
あまりにもひどい
でも負けてはならない
日本の約1・6倍、ロシアを除けばヨーロッパ最大の国土を持つ人口約4,159万人の国ウクライナ。(人口は、2014年にロシアに一方的に併合されたクリミアは含みません)
日本とウクライナは、今年1月26日に外交関係樹立30周年を迎えました。当日、松田邦紀駐ウクライナ大使は「我が国は、ウクライナとの国交樹立以降、ウクライナの主権、独立及び領土の一体性を支持して来ました。その姿勢は、今後とも変わりません。また我が国は、引き続きG7をはじめとする国際社会と緊密に連携して、ウクライナの平和と安定と繁栄の実現に向けた、ウクライナの改革努力を積極的に支援して行きます」との挨拶を寄せています。(在ウクライナ日本大使館HP)
そんなウクライナに対し、あろうことか2月24日、プーチン大統領はロシア軍に「特別な軍事作戦」の開始を命じました。
岸田首相は、直ちにこれを厳しく非難し、日本の立場を鮮明にしています。
「今回のロシア軍によるウクライナへの侵攻は、力による一方的な現状変更の試みであり、ウクライナの主権と領土の一体性を侵害する明白な国際法違反です。国際秩序の根幹を揺るがす行為として、断じて許容できず、厳しく非難します。我が国の安全保障の観点からも決して看過できません。G7を始めとする国際社会と緊密に連携し、ロシアに対して軍の即時撤収、国際法の順守を強く求めます」(2月25日 記者会見)
また、バイデン大統領は、「Putin is aggressor.Putin chose this war.(プーチンは侵略者だ。プーチンはこの戦争を選択した)」と激しく指弾しています。(2月24日 記者会見)
日本は欧米と連携し、強い意志を以て、ウクライナを支援し、ロシアに対しては断固とした厳しい制裁を科し、プーチン大統領をして、この「特別な軍事作戦」との名の下の「侵略」が、とてつもなく高い代償を払うことになることを思い知らせ、打撃を与えなければなりません。
台湾統一や我が国固有の領土である尖閣諸島、南シナ海での力による一方的な現状変更に向けて軍事力増強を加速している中国や核ミサイル開発を推進する北朝鮮は、日本・欧米の対応をしっかりと見ています。その対応如何は、明日の日本の安全保障に直結すると言っても決して過言ではないと思います。
2月27日、プーチン大統領は、ロシア軍で核戦力を運用する部隊に、任務遂行のための高度な警戒態勢に入るよう命じています。核大国による恫喝です。
多方面からウクライナに侵攻しているロシア軍によって、軍事目標のみならず民間インフラや学校・幼稚園、病院、住宅なども容赦なく破壊され、崩れ落ち、火を噴いています。戦術核兵器の次に殺傷力が高いと言われる燃料気化爆弾やオスロ条約が禁じたクラスター爆弾も使用したのではないかとの疑いも指摘されています。
原子力発電関連施設にさえ砲弾を撃ち込み、ウクライナの首都キエフの北方約110kmにあるチェルノブイリ原発を制圧。続いて欧州最大級のザポロジエ原発等も制圧しています。
全世界の皆さん、とりわけ福島第一原発事故を体験し、災害派遣活動に従事した自衛隊員の皆さん、ご家族、本紙読者をはじめ私たち日本人は、思わず1986年4月26日に発生したチェルノブイリ原発の爆発事故を想起し、震撼したのではないでしょうか。「192トンの核燃料のうち4%、広島型原爆約400発分の放射性物資(セシウム137は福島第一原発事故の約6倍)が大気中に放出された。これにより、ウクライナでは肥沃な農地、森林を含む5万平方キロの国土(全国土の8%)が放射性物質によって汚染され、原発から30km圏内は立ち入り禁止区域とされた」「チェルノブイリ原発周辺30kmは30年以上が経過した現在も立ち入り禁止区域となっている」「ウクライナ社会政策省によれば、2021年1月1日現在、ウクライナ国内で約171・8万人が事故被災者として登録されている」(在ウクライナ日本大使館HP)
ロシア軍の一部約3万人の兵士は、ベラルーシとウクライナとの国境近くでロシア軍との合同軍事演習目的を理由に展開した後、ウクライナに進攻しています。
ベラルーシ国境は、チェルノブイリから僅か16km。原発事故当時、風が南から北に向けて吹いていたことから、「最大の被害国とされ、現在も国土の17~18%が汚染、国民の約12%が汚染地域に居住している。」(在ベラルーシ日本大使館HP)
ロシア兵のなかで、汚染について予め承知していた兵は、どのくらいいたでしょうか。予め何らかの防護・汚染対策を講じていたでしょうか。ふと最高指揮官の命により派兵されるロシア兵の皆さんのことも頭をよぎります。
砲撃や空爆に恐れおののくウクライナの皆さん。負傷した皆さんや幼い子供の蘇生に懸命に取り組む医師や看護師の皆さん。我が子を失った若い夫婦の悲惨な姿。連日、次から次へと目を覆いたくなるニュース映像が続いています。報道されているのは、実際に起きていることの、ごく一部に過ぎないことは言うまでもありません。
祖国を守るためウクライナに留まりゼレンスキー大統領と共にロシアと戦い続ける父や夫、息子や兄弟等、或いは病気等で動くことが出来ない家族に断腸の思いで別れを告げ、凍てつく寒さの中、着の身着のままポーランドをはじめ隣国へ避難する多くの母親と子供そして老人たち。ロシア軍の侵略から10日余りで既に200万人を超え、その数は留まるところを知りません。一刻も早い停戦、ロシア軍の撤退あるのみです。
しかし、これまでのところプーチン大統領は、ウクライナに対し、まるでウクライナという主権国家・民主国家の消滅を図るような停戦条件を突き付けています。
「完全非武装化」・「中立化」・「2014年に併合したクリミア半島をロシア領として承認」・「プーチン大統領が2月21日に独立を承認した親ロシア勢力が支配するウクライナ東部の2地域、ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国の独立承認」
そんなプーチン大統領について、こんな指摘があります。
「彼がくだす決定、彼が推進する基本的な政策方針に逆らう勇気や実力をもつ側近などは、ただの一人もいない」(木村 汎著「プーチンとロシア人」平成30年1月 産経新聞出版刊)
「プーチンの行動原理は、負けること、侮辱されることは許さないことにある」「プーチンは今やロシアの足を引っ張る存在なのだ。ロシアと話をつけようとするとき、彼を相手にするしかない。なぜなら、すべてを彼一人が決めてしまっているからだ。しかし、彼と話をつけることがどんなに重要でも、それは非常に困難なことになってしまった」(いずれもジャーナリスト ナタリヤ・ゲボルクヤンの言葉 朝日新聞国際報道部著「プーチンの実像 証言で暴く皇帝の素顔」2015年10月 朝日新聞出版刊)
それでも、ウクライナは、日本は、欧米は、やらなければならないのです。負けてはならないのです。絶対に。
北原 巖男(きたはらいわお) 元防衛施設庁長官。元東ティモール大使。現日本東ティモール協会会長。(公社)隊友会理事