自衛隊ニュース

ノーサイド
北原巖男
節目の年に
今、世界は、これまでになく厳しく混とんとした国際情勢、国際軍事情勢の真っ只中にあって、更にこの先いったいどう展開して行くのか、全く不透明と言っても過言でない毎日が続いています。不安と心配は募る一方です。
それだけに、日本のかじ取りが重要であることは述べるまでもありません。日本の総力を結集して、胆力の在るしたたかな主権国としての決意、交渉力、外交力、日本力を発揮して行って頂きたいと思います。併せて、我が国の防衛力については、その抑止力・対処力の強化に努め、いかなる事態が生起しようとも、国民の負託に応え得る態勢を整備して行かなければなりません。
そんな中、3月22日に防衛大学校の卒業式に参加して来ました。式典に臨席された日本のかじ取りの先頭に立っている石破 茂首相や中谷 元 防衛大臣そして4年間卒業生を教育指導して来られた久保文明防衛大学校長は、それぞれ卒業生に対する熱いメッセージを送っていました。(以下の各氏のメッセージの紹介等は、筆者の記憶に基づくものです。)
石破首相は、「抑止力の強化」・「人こそ防衛力の基盤」・「自衛隊員としての誇りと名誉」・「処遇改善」・「最高の規律の厳守」・「国民から全幅の信頼を得られる組織たるべし」・「国民の負託に応える」等を訓示し、更に自分がこれまで影響を受けた一冊の本として、吉田 満さんの「戦艦大和ノ最期」を読むことを勧めていました。
(ご参考)2020年11月15日付け、本紙本欄拙稿「自衛隊記念日に」にて、「戦艦大和ノ最後」を取り上げたことがあります。
石破首相はじめ、これまで本書を読まれた皆さんには、それぞれの受け止め方があると思います。
僕は、石破首相の話を聞きながら、僕の心に残っている戦艦大和と共に命を共にした旧軍人の遺志・切なる本音の話を思い出していました。曰く、「進歩トイウコトヲ軽ンジ過ギタ・・・本当ノ進歩ヲ忘レテイタ」
新たに防衛省・自衛隊を担って行く皆さんには、先達の遺志をしっかりと受け継ぎ、かつての失敗を再来させるようなことが断じて無いよう努めていただきたいと思います。
緊張した面持ちで自衛隊最高指揮官を直視し、話を聞く卒業生たち。僕は、そんな彼らをじっと見つめていました。
まだこの著書を読まれていない方には、僕からもご一読を勧めます。
中谷防衛大臣は、冒頭、「ノブレスオブリージュ」の精神を終生にわたって心に刻んでいただきたい旨訴えると共に、「激しいスピードで変化する状況に柔軟に対応し得る組織」であることの重要性を指摘。更に、ご自身の防大卒業生としての体験を踏まえて、「同期の絆」や「最後まで筋を通すことでこそ見えてくる真実がある」こと、また、「自分の心の鏡を磨く」よう、熱く訴えました。
また、中谷防衛大臣は、卒業生に「些事」を疎かにしないようにとも語り掛けました。ちなみに中谷防衛大臣は、現在、僕が関係している東ティモールについての友好議連の会長も長年にわたって務めてくださっています。「些事」と思われることにつきましても、疎かにされることはありません。正に、有言実行の方です。
訓示を通しても、中谷防衛大臣のお人柄、その中にある強い信念に改めて触れた思いがいたしました。そんな中谷防衛大臣の下に、元気で士気の高い、常に国民と共にある国民の防衛省・自衛隊はあります。
そして、卒業生一人ひとりに万感を込めて卒業証書を手交された久保文明防衛大学校長。久保学校長の卒業生に対する愛情と期待に満ちた力強いはなむけの言葉には、僕も感動を禁じ得ませんでした。
久保学校長の一貫したお考えを、今回も聴くことが出来ました。
久保学校長は、かつて防衛庁長官も務められた中曽根康弘首相が、防大卒業式で幹部自衛官を「永遠の求道者」と定義され、「常に人格の陶冶に心がけ、上司の信頼と部下の尊敬を受けるに足る品格と特性を身につけるよう不断の努力を傾注されたい」旨述べていることを紹介し、「人間力の強化」に努めて頂きたい旨訴えられました。「手柄は部下に、責任は自分が取る」、「皆さんの敵は、ひょっとしたら皆さん自身の〝慢心〟かもしれない」とズバリ指摘。「謙虚さ」を忘れることの無いよう、強調されました。僕の胸にも突き刺さって来ました。
そして、「先行き不透明な、現下の国際情勢等の中にあっても、なお、希望を捨てずに、希望を持つことが出来る根拠は、君たちがいるからだ!」と断じられました。恩師を見つめる卒業生たちは、自分のものとしてしっかり受け止めているように見えました。
強い信頼の絆で結ばれた恩師と教え子たちがここにいます。
また、久保学校長は、一昨年の卒業式から、卒業後自衛官に任官されない卒業生達も卒業式に出席する決断をされています。任官されないことは真に残念です。その理由は、それぞれと思います。
久保学校長は、そうした皆さんを含めて「防衛大学校は、卒業生全員にとっての母校である。胸を張って進んで行くよう、同期を大切にされるよう」呼びかけました。
この呼びかけを聴いたとき、僕には直ぐに浮かんで来た方がいます。事情があって任官されませんでしたが、防大卒業生であることを常に誇りにされ、自分が今ある原点は防大での教育訓練であると公言、多忙な業務に取り組んでおられる宮原博昭さんです。氏は、学研ホールディングス社長や恵まれない母子家庭の子女の高校進学・学業継続を支援する(公財)古岡奨学会理事長、(一社)日本雑誌協会理事長等を務めておられます。そんな氏は、現在、防衛大学校の(公財)防衛大学校学術・教育振興会の評議員として、母校の一層の発展のため尽力されています。
宮原さんのように、自衛官以外の道を進まれ、各界で活躍し、社会に貢献されている卒業生は沢山おられることと思います。凄い力だと思います。「防大は卒業生全員の母校である」との久保学校長の呼びかけは、そんな全国の皆さんの心にも響いたのではないでしょうか。それぞれの分野で、一層頑張って頂きたいと思います。
改めて、卒業生一人ひとりに対する人間防衛大学校長久保文明先生の、良き社会人としての人間育成そして幹部自衛官要員育成に努めておられる思いとそのご尽力に心から力いっぱいのエールを送りたいと思います。
この4月に、防衛省・自衛隊での一歩を踏み出された若者は、もちろん防大卒業生だけではありません。全国には、陸海空の自衛官・事務官・技官・教官等の皆さんが、沢山います。それぞれが自らの決断と力で自衛隊員としての門を開け、くぐられた皆さんです。
今年、2025年は、激動の中で迎えた戦後80年の節目の年。皆さんは、「戦後80年入隊の同期」です。ちなみに僕たちは、「1972年沖縄復帰の年入隊の同期」でした。そんな自衛隊OBの一人として、新たにスタートされた皆さんのことを思うと、何か胸に迫って来るものがあります。
「みんな頼むぞ!身体には、くれぐれも気を付けてください!」
今は、右も左も分からず、自分はこれからどうなるか、喜びの中にも不安と緊張でいっぱいかも知れません。実は、そんな気持ちは、あなただけではありません。僕も、皆さんの先輩や上司の人たちも、あなたと同じでした。
大丈夫!恐れるには及びません。
そう、「常に国民と共にある国民の防衛省・自衛隊にとって、自分こそかけがえのない人物である!」そんな気持ちを自分自身に言い聞かせてください。そして是非、前を向いてチャレンジして行ってください!
「YES, I CAN!」です。
北原 巖男(きたはらいわお) 元防衛施設庁長官。元東ティモール大使。現日本東ティモール協会会長。(公社)隊友会理事