自衛隊ニュース

<論陣>
靖国参拝を外交の道具にするな
=中国・韓国両首脳の発言に対して=
「日本の指導者が靖国神社にこれ以上参拝しなければ、首脳会談をいつでも開く用意がある」=胡錦濤中国国家主席=。「小泉日本国首相は靖国神社の参拝をやめるべきだ。日本は歴史教科書検定問題で深く反省せよ」=盧武鉉韓国大統領=。中韓の国家主席が、ことあるごとに発する言葉である。
神社詣でと外交。それほど国の運命にかかわることだろうか。話し合えば解決することと思っているのは、ほとんどの日本人である。両国とも国内に充満している庶民、大衆の不満を外部に向けることで『不満のガス抜き』をしているのではないかと疑いたくもなる。確かに中国では景気過熱による貧富の格差が日を追うごとに高まっており、追いかけるように消費税の増額、役人の汚職のはびこり、民族独立などの諸問題が山積み、中央、地方政府への人民大衆の不満、怒りは高まっている。また韓国は産業不振、雇用問題など当面解決しなければならない諸問題があるのに解決への道は遅々として進んでいない。そうしたことに対して「反日」を叫ぶことで一時的に先のばしして政権の延命を図っているのかもしれない。
「靖国を槍玉にあげておけば日本は弱腰になり、自国の主張が有利に展開できる」。その理論武装ぶりが見え見えであるのを中韓両国の指導者は気付いていないのだろうか。
第一、靖国神社の生い立ちを両国の指導者は、はっきりと理解しているかが疑問である。
A級戦犯の合祀の是非には国民の意見は二分している。しかし、靖国神社そのものの存在は認めているのが現実である。
東京・九段坂上にある靖国神社(1869年創立)は国事にたおれた人々の霊が祀られている。百科事典などの資料によると明治維新前後の殉難者をはじめとして佐賀の乱、西南戦争、日清戦争以来、第二次世界大戦での戦死者約250万人の霊が合祀されており、この中には従軍看護婦や第二次大戦時に生命を失くした女子挺身隊員なども含まれている。神社地は大村益次郎の選定で、はじめは東京招魂社といわれたが、1879年に靖国神社と改められた。毎年4月22日から25日までの春季例大祭と10月17日から5日間の秋季例大祭の2回の大祭があり、両大祭には天皇陛下の御使いとして勅使の参拝(参伺)がある。歴代の首相では中曽根康弘氏が内閣総理大臣として公式に参拝し、神社の参拝帳に記帳した。以後、総理大臣で参拝するものは「記帳」するのが、ならわしのようになっている。
さる3月31日、橋本龍太郎氏ら日中友好7団体の代表が北京を訪れた際、胡主席は、再び日本側に「日本の指導者がこれ以上、靖国神社に参拝しなければ、日中首脳会談をいつでも開く用意がある」と発言した。この発言の意味は"小泉首相あて"の形をとっているが、実は「そうではなく、ポスト小泉の人物に言っているのだ」という見方が一般的である。というのは小泉首相の任期は、ことしの9月で終わる。10月17日の例大祭当日には小泉氏は内閣総理大臣ではなく、ただの一代議士になっているので、秋の大祭には自由に参拝できるのである。それ以前に参拝するとなると8月15日の終戦記念日ということになる。いまの雰囲気では、あえて"強行する"可能性はうすい。胡主席の発言は次の内閣総理大臣を念頭に置いての"警告"というのが識者の一般的な見方である。
このことについてポスト小泉の最有力候補と見られている安倍晋三官房長官は「政治目的を達成するために会わないというのは間違っている。国のために殉じた方々に手を合わせて冥福をお祈りする気持ちは持ち続けていきたい」と参拝路線を進む姿勢。麻生太郎外相も「問題があるのなら、両首脳が話し合うのが大切だ」と外国と靖国は別との立場をとっている。
このたび民主党代表になった小沢一郎氏は「戦争で亡くなった人のみの霊を祀る本来の姿に戻して天皇も首相も堂々と参拝すればいい」と語っている。同氏は「A級戦犯といわれる人たちは戦争で死んだわけではない」と合祀には否定的だ。多くの意見が出る中で靖国神社問題は、これから様々と形を変えながら「日本国内で定着した結論」が生まれるものとみられる。外交や国際政治の具にだけはされたくないものである。