立ち会ったものに、何か新しい勇気を与えてくれる清涼感、帽子投げ、昨日を吹っ切り、あらたな挑戦へ──。防衛大学校(神奈川県横須賀市)では3月21日、平成16年度の卒業式典が行われ、小泉純一郎内閣総理大臣、大野功統防衛庁長官、扇千影参議院議長はじめ衆参国会議員、防衛庁・自衛隊の高級幹部および、内外来賓や関係者の列席のもと、本科と研究科の学生に卒業証書が授与された。式典後は陸上競技場で在校生による観閲行進が行われ、新自衛官となった卒業生が陸海空制服で後輩の前に整列。留学生も各国の軍服姿で颯爽と並び、行進を見守った。また卒業生パイロットによる祝賀飛行が上空を通過し、後輩の門出にエールを送った。
日本一おごそかな卒業式典、それは内閣総理大臣の臨場と、防大儀仗隊による栄誉礼で始まった。
防大50周年記念講には日の丸、学校旗、そして留学生の祖国の旗が掲げられ、赤絨毯の祭壇に神事の趣がある。
この日、小原台を巣立ったのは、本科学生・337名(女子29名、留学生12名)と研究科学生・79名(理工学研究科前期課程54名、後期課程5名、総合安全保障研究科20名)。
本科学生のうち、陸上要員143名(女子9名)・海上要員82名(8名)・航空要員78名(7名)が曹長に任命され、幹部候補生となった。自衛隊の将来を担う若き指揮官がキャリアに一歩を踏み出した。
大学院課程に相当する研究科では、理工学研究科・前期課程の第42期生が、総合安全保障研究科の第7期生が、それぞれ修士号を取得。理工学研究科・後期課程では5名の第2期生が卒業し、博士認定が期待される。専門分野の高度な理論を修め、引き続き自衛隊の発展に貢献する。
【今日がスタート】
「本日は、鍛えた知力、精神力、体力を崇高な国防の任務に捧げるためのスタートの日である」。西原学校長が、本科学生全員と研究科学生の代表に卒業証書を手渡した。
「柔軟な思考力をもった指揮官になれるよう、古典や歴史書に親しみ、洞察力と高い倫理観を磨き、勇気と忠誠、正義と責任感を尊ぶ武士道精神を涵養してくれることを要望します」と本科生に訓示した。
また7カ国21名の留学生には「国際平和のために国境を越えた武人になって、友情が国際平和活動などで活かされることを祈ります」と将来を期待した。
【国民とともに】
「学ぶことに終わりはない」すなわち「防大卒業はひとつの課程を乗り越えたこと。これから第一線の部隊に出て、文武両道、自ら研鑚を続けるよう願ってやみません」。
このように訓示した小泉首相は、内外での自衛官の活躍と、世界情勢の変化に言及、法制の整備など、着実に進めているが、まず「自衛隊に対する国民の理解と信頼があってこそ、自衛隊は日本の防衛という大任をまっとうできる」と述べた。「諸君には常に国民とともにある、という自衛隊の原点を守り続けて活躍していただきたい」とはなむけの言葉を贈った。
【平和の架け橋として】
大野長官は「諸君の道は『崇高な道』『世界平和へ通じる道』である。防衛力を支える柱として、研鑚を重ねてほしい」と述べ、中越、インドネシア、またイラクでの自衛隊に対する感謝の言葉とふれあいを列に、「自衛隊のソフトパワーが各国の人々の共感を呼んでいる」と説明。また“未来からの大使”である留学生に「わが国との末永い架け橋として活躍してほしい」と希望した。
【礎ここに築かん】
卒業生を代表して、学生長・永田恵学生が答辞に立ち、全学生が歌詞に思いを込めて、巣立ちの学生歌を高らかに斉唱した。各幕僚長から一般幹部候補生の任命を与えられ、卒業生たちは自衛官となった。陸海空を代表して納谷和希陸曹長、永田恵海曹長、松本直空曹長が自衛官の「宣誓書」を小泉首相に手渡した。交わした握手は固い。
永田学生長の澄んだ声が抱負を一喝、全員が学生帽を高く投げ捨て、会場を揺るがす歓喜の突風となり、武人の道へ駆け出した。