自衛隊ニュース

ノーサイド
北原 巖男
照ノ富士
全国の自衛隊員・ご家族の皆さん、本紙読者の皆さんは、どう受け止めておられるでしょうか。
「照ノ富士不屈の道 優勝10回、現役引退 奇跡の復活 唯一無二」(1月18日付け、日本経済新聞)。
横綱照ノ富士(33歳)が、1月17日に引退しました。14年間の力士生活でした。両ひざに大きなサポーターを巻いて取り組む姿は、痛々しささえ感じましたが、在位21場所のうち20場所は一人横綱をはり、国技大相撲を牽引して来ました。
思えば、2008年5月の初土俵以来、日の出の勢いで昇進を続けて来た照ノ富士。2015年7月場所に平成生まれ初の大関となりました。ときに23歳。
しかし、両ひざのけがと持病の糖尿病のため、負け越しや休場が続き、2018年7月場所は幕下に陥落、11月場所では三段目に陥落し、ついに翌2019年3月場所には西序二段48枚目まで陥落してしまいました。残るは序の口のみ。
もはや力士としての希望は完全に消え失せた・・・
僕は、そう思いました。この際、気持ちを切り替えて、別の道で力いっぱいリベンジすればいいじゃないか。
ところが、照ノ富士は違いました。正に唯一無二。序二段陥落から不屈の闘志を以て復活したのです。24場所ぶりの2021年5月場所で大関に復帰。更に2021年9月場所で第73代横綱に昇進しました。序二段まで陥落した力士が最高位の横綱に。もちろん史上初です。
引退を表明した1月17日の記者会見発言主旨。
「親方や奥さん、家族の言葉があったから、もう一回やれることをやってみようと思った。」「いい時も悪い時も一緒にいてくれて、さぼりたい気持ちを奮い立たせてくれたのも奥さん。有難い。」「誰よりも努力して、自分に嘘つかない、自分に負けるな、を自分に言い聞かせて来た。」「マイナスで捉えると何でもうまくいかない。プラスで捉えてやって来た。」「あえて思い出の一番は、平成31年春場所初日の序二段最初の相撲。14年間の中で一番緊張した。」「やるべきことを全力を尽くしてやっていきたいという一つの思いだけで頑張って来た。」「相撲人生を2回楽しむいい機会になった。みんなに支えられてきたことを実感。感謝しかない。」
そして、今後は親方として、「自分に嘘つかない、自分を曲げない力士を育てて行きたい。そういう力士は、必ず強くなる。」
引退に際して、「相撲人生を2回楽しむいい機会になった」と言える人間横綱照ノ富士。一言一言吐露する彼の心情に触れるとき、相撲人生とは全く縁のない僕にも共通する大切な気づきを幾つかもたらしてくれていることにハッとします。
「子供が生まれたからより一層頑張らなければいけない、家族を持ったからより一層頑張らないといけないという言葉を聞くんですけれど、自分の中ではそういうのはなく、子供が生まれたからといって、もっと頑張れるんだったらその前に頑張るべきだと思うし、その前からも、やれることをを精一杯やってきたつもりなんで。」
4年ぶりに鑑識競技会開く
陸自警務隊本部
保安部隊参加で目指す「機動化」
足跡に石膏を流す隊員
12月17日と18日、陸上自衛隊警務隊本部(隊長・河口弘幸陸将補)は、捜査技術の練度向上と士気高揚及び団結強化を目的として、防衛省市ヶ谷体育館において4年ぶりに「令和6年度警務隊鑑識競技会」を行った。
競技会は主任・採証係(3名)・写真係の5名1チームで編成され、方面警務隊対抗戦で行われた。17日午前は鑑識が本来業務の隊員による「捜査の部隊の部」、午後は警護や道路交通統制等、鑑識が本来業務ではない隊員による「保安部隊の部」が初めて行われた。方面警務隊を勝ち抜いた代表が、そのプライドをかけてしのぎを削った。
採点は警察庁犯罪鑑識班が初めて協力
会場には、駐屯地内で発生した窃盗事件を想定して、パーテーションで仕切った5つの「事件現場」が設営され、各チームが一斉に捜査をスタートさせた。現場に散りばめられた犯人の痕跡は、指紋や足跡等全部で16個。2時間以内に全てをあぶり出すには難度は高めの設定だという。
慎重に捜査を進める隊員たち。土の上に残された足跡。石膏を流し、固めて証拠として残す。水平ではなく傾いているため、こぼさないよう表面を固めながら少しずつ流す。温度や湿度も考慮しなければならない。経験と練度が問われる作業だ。
競技会終了後、すぐに警察庁犯罪鑑識官のプロが採点に着手した。指揮手順・採取した証拠の数と鮮明度・撮影写真の精度について入念にチェックを入れる。警察庁犯罪鑑識官の協力は今回が初めてだが、警察が行う鑑識競技会やサイバー捜査競技会に自衛隊が参加する等、近年この分野での交流が進んでいる。18日の閉会式で警察庁犯罪鑑識官吉田課長補佐は、「今日まで厳しい訓練をしっかりしてこられたのだと非常に強く感じた」、「今後も自衛隊の皆様と切磋琢磨してお互いに発展していきたい」と総括した。
競技会の結果は以下の通り。
◆総合順位(2部門を合計した総合優勝のみ表彰)
1位 北部方面警務隊
2位 東部方面警務隊
3位 中部方面警務隊
◆捜査部隊の部 優秀者
・見分 第123地区警務隊 髙橋3尉(東北警)
・採証 第126地区警務隊 水田2曹(東方警)
・採証 第126地区警務隊 内藤3曹(東方警)
・採証 第126地区警務隊 阿部3曹(東方警)
・写真 第119地区警務隊 水間3曹(北方警)
◆保安部隊の部 優秀者
・見分 第301保安警務中隊 伊藤1曹(北方警)
・採証 第301保安警務中隊 藤田3曹(北方警)
・採証 第301保安警務中隊 佐藤雄大3曹(北方警)
・採証 第301保安警務中隊 佐藤蔵治3曹(北方警)
・写真 第302保安警務中隊 石渡2曹(東方警)
【親子対決が実現】
今回、中部方面警務隊長の野口敬利1陸佐と、その子息で東部方面警務隊代表の写真係として参加した野口智弘3曹による親子対決が実現した。父・野口1佐は「敵ですが、やはりしっかりやれているか心配でした。思いのほかしっかり動けていましたね」と息子の仕事ぶりに少しだけ頬を緩めた。結果は智弘3曹の東方が総合2位、敬利1佐の中方が総合3位となり、親子対決は息子に軍配が上がった。
ICT活用で省人化・スピード化図る
改革進む警務隊
陸自警務隊は、一昨夏に着任した河口隊長が先頭に立って組織改革に乗り出している。限られた人員と器材、増大する任務…自衛隊の置かれた状況は警務隊も例外ではない。そこで前職の第3施設団長時代に推進した「ICT(情報通信技術)化」を警務隊でも導入。3D測量器材の事件現場への転用、クラウドシステムを活用した情報共有、認識AIを利用した調書業務の迅速化等、省人化・スピード化を推進している。また保安部隊にICT器材を持たせて、現場に急行させる「機動捜査部隊化」にも取り組む。ある警務隊隊員は、「捜査部隊は駐屯地に2、3名ほど。一方、保安部隊はある程度の勢力がいるので、保安部隊を事案発生後に増援要員として機動的に運用することができれば、捜査がスピードアップできる」と明かす。新設された「保安部隊の部」にはそのような狙いがあった。河口隊長は「改革は3段階中の第2段階。2030年にはある程度の形に持っていきたい。隊員の士気は上がっている」と話す。
日‐エストニア防衛相会談
サイバー分野の協力・交流推進で一致
1月29日、中谷元・防衛大臣は、エストニア共和国のハンノ・ペフクル国防大臣と防衛省で会談した。両国による防衛相会談は2018年9月に防衛省で行って以来。IT・サイバー分野において先進国と言われるエストニアには、NATO(北大西洋条約機構)のサイバー防衛協力センター(CCDCOE)が所在しており、自衛隊は同センター主催のサイバー演習に2021年から参加している。両大臣は、サイバー分野における協力、防衛装備・技術協力、NATOを通じた協力等を含む、さらなる防衛協力・交流を推進していくことで一致した。
ペクフル大臣は「日本とエスト二アは志を同じくする国であり、価値観を共有している」と述べ、中谷大臣は「欧州・大西洋とインド太平洋の安全保障は不可分である」とし、「この地域の課題に、相互に連携を強化していくということが極めて重要だ」と強調した。