自衛隊ニュース

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首都圏駐屯地曹友会、過去最多の参加者で

千鳥ヶ淵戦没者墓苑清掃ボランティア活動

 毎月、多くの個人の方々、団体の皆さまに墓苑清掃の奉仕を賜っている。年間を通じて墓苑清掃ボランティア会、各宗教団体の清掃ボランティア会などの他に個人で毎週ご来苑され雑草取り、池の周辺の苔整備をお願いしている。

 今回は5月20日に首都圏所在の朝霞、三宿、十条の各駐屯地曹友会からそれぞれ、30名、32名、20名、計82名の自衛官がご家族を伴い参加、その他一般からも20名の参加を得て総勢100名の清掃奉仕となり、参加者数では過去最大の清掃ボランティア活動であった。

 ここ国立千鳥ヶ淵戦没者墓苑は、わが国の無名戦士の墓である。千鳥ヶ淵には先の大戦において海外で亡くなった240万名のうち、持ち帰られた軍人、軍属はじめ一般邦人のお引き取り手のないご遺骨37万263柱が納骨されている。5月29日の拝礼式には佳子内親王殿下、岸田総理大臣が出席した。

 墓苑を管理する世話役の柳澤弘昌(元朝霞駐屯地曹友会長)さんは、「戦後78年を迎える今日、私たちは戦没者の皆さんへ崇敬の念をいつまでも持ち続けることが必要と思う。また、現役の自衛隊の皆さんがお子様連れで参加される様子を見て戦没者の方々もさぞやご満足されています。次回本ボランティア活動(9月16日)にはより多数の自衛官の皆さんの参加をお願いしたい」と語った。


読史随感

神田淳
<第130回>

福島原発処理水の海洋放出の安全性について

 政府は昨年福島第一原発の処理水を海洋放出する方針を決定し、IAEAに放出計画の安全性に関する調査を要請した。IAEAは11カ国の専門家でつくる調査団を日本に派遣し、現地調査などを進めてきた。調査を終えたIAEAは、処理水の海洋放出が国際的な安全基準に合致しており、放出による人間や環境への放射性物質の影響は無視できるレベルと結論する包括報告書を公表した。来日したグロッシIAEA事務局長が7月4日岸田首相に報告書を手交した。

 人間や環境への影響を無視できるほどの微量な放射能レベルになるとはいえ、処理水が放射能汚染水であることに変わりはないので、これを海洋放出することに対して根強い反対がある。以下、処理水の海洋放出計画を知り、安全上問題なく実行できることを確認したい。

 廃炉作業中の福島第一原発の核燃料デブリを冷やすために水を注入しているが、これが放射能汚染水となる。また、地下水が原子炉建屋に流れ込み、汚染水に加わる。汚染水には多くの放射性核種が含まれるが、トリチウム以外の放射性核種はほぼ完全に(少なくとも安全基準を下回るレベルまで)多核種除去設備(ALPS)で除去することができる。トリチウムだけは原理的に除去することができないので、海水で希釈して海洋放出することになる。

 現在福島第一原発の敷地内には、ALPSで浄化した汚染水を貯蔵した数多くのタンクが満杯になりつつあるが、ALPSで浄化したとはいえ、放射性物質が完全に除去しきれていない汚染水もタンク中に存在している。海洋放出にあたってはまず、こうした汚染水を二次処理施設で再浄化し、トリチウム以外の放射性物質を完全に安全基準以下のレベルになるまで除去する。このレベルまで再浄化処理した汚染水を処理水と呼んでいる。処理水にはなおALPSで除去されないトリチウムが存在しているが、これは放出基準を十分下回るまで希釈して海洋放出する。

 ALPSで除去できない放射性核種トリチウムの安全性について理解が必要となるが、トリチウムは三重水素のことである。普通の水素のように安定的でなく、放射線(β線)を出しながら壊変し(半減期12・3年)、安定したヘリウムになる。トリチウムは自然界には普通の水素と同じように、酸素と結合した水として存在する。地球に降り注ぐ宇宙線が大気とぶつかってトリチウムが生成され、大気中の水蒸気、雨水、海水、河川水、水道水の一部として存在する。人間の体内にも数十ベクレルのトリチウムが存在している。トリチウムから人体は放射線被ばくを受けているが、あまりにも微量であるため健康影響など全くない。

 放射能の影響を考えるとき、生物の体内に取り込まれた放射性物質が体内に蓄積する、いわゆる生物濃縮が問題となるが、トリチウムはトリチウム水として存在し、トリチウム水の化学的性質は普通の水と同じであるから、生物濃縮は起きない。

 IAEAは包括報告書で、処理水放出を制御するシステムとプロセスは堅固であり、放出で見込まれる線量とリスクに対し十分適切であると評価した。そして、人に対する年間被ばく線量は0・05ミリシーベルトをさらに千分の1下回り、人間や環境への影響は無視できるレベルと結論した。

 廃炉を進める福島第一原発の処理水の海洋放出は、環境・安全上問題ない。地元漁業者と国際社会の理解も得て、これが実行されることを念願してやまない。

(令和5年8月1日)


神田 淳(かんだすなお)

 元高知工科大学客員教授。

 著作に『すばらしい昔の日本人』(文芸社)、『持続可能文明の創造』(エネルギーフォーラム社)、『美しい日本の倫理』などがある。


ノーサイド

北原巖男

自衛隊員&家族の皆さんは、住民です!

 7月20日付け「八重山毎日新聞」(本社 沖縄県石垣市)1面に、「おわび」と題して次のような囲み記事が掲載されました。

 「19日付社説で、『石垣市の人口5万人達成も自衛隊員、家族は含めずに公表すべきではないか』などと、自衛隊員、その家族の皆さまの人権に対する配慮を欠いた表現があったことを深くおわびいたします。(株)八重山毎日新聞」

 マスコミを含め「表現の自由」が確保されることがいかに大切であるかは、僕も承知しているつもりですが・・・。

 遡ること1972年5月15日の沖縄の本土復帰以来、これまでどれほど多くの自衛隊員の皆さんが家族と一緒に沖縄本島はじめ八重山等の離島に赴任し、それぞれに与えられた任務の遂行に努めると共に、当該地域の皆さんとの「良き隣人」関係・絆を築き挙げて来られたことでしょう。中には沖縄にて人生の伴侶や家族にも恵まれ、かけがえのない家庭を築いて来られている隊員の皆さんも沢山おられることと思います。イチャリバチョーデーとかヤーニンジュ、チムグクルといった沖縄の皆さんが大切にされている沖縄古来の温かい思いや言葉と共に浮かんで参ります。

 かつて、僕も自衛隊員として妻と一緒に沖縄県に赴任し、基地問題に取り組みながら多くの県民の皆さんに出会い、発見し、親しく交流する機会に恵まれた一人です。あれから幾年月。これからも、あのときのご縁を大切にしながら、ともに人間同士、一緒に歩んで行きたいなぁと思う今日この頃です。

 僕は、前掲「おわび」が、「人権に対する配慮を欠いた表現があった」とだけ捉えて、そこに留まっていることに、大きな違和感を抱いています。

 社説の論調は、あくまでも職業が自衛隊員であることを理由としています。自衛隊員という特定の職業に従事している石垣市民である隊員を、その職業によって差別し、その人権を真っ向から否定し無視するものと断じざるを得ません。しかも、隊員の家族の人権をも一網打尽に否定し無視しているのです。

 7月19日付、同紙社説。(筆者抜粋)

 「・・・石垣市の人口が10日、初めて5万人を超えた。中山義隆市長は喜びの表情で記者会見、・・・会見で市長は5万人達成の要因について移住者の増加のほかに自衛隊基地の開設もあると言及したが、本音はそこにあるのではないか。だとすると違和感を抱かざるを得ない。『自衛隊のおかげで5万人に達した』などと言われたら素直に喜べないのが一般市民の受け止めではないか。

 新型コロナ大流行のころ、沖縄県の感染者数が毎日発表され、そのなかで、米軍関係は含めないとのお断りがあった。これと同様、石垣市の人口5万人達成も自衛隊、家族は含めずに公表すべきではないか。

 そんな意見があってもおかしくない。

 ・・・市長が言う『目標5万5千人』もその根拠が分からない。・・・少なくとも明確なのは『基地のない自然豊かな島にしよう』ではないか。」

 自衛隊や石垣駐屯地開設に対する見解や立場の相違に拘わらず、同紙社説を読まれた皆さんの中から、社説が言うような「そんな意見」が出てくることは皆無である。僕はそう確信します。

 沖縄県内各地で暮らしている自衛隊員&その家族の皆さんは、いずれも在住する自治体の市民であり町民であり村民なのです。

 正真正銘の住民です。

 皆さんには、これからも謙虚な中にも矜持を持って、良き社会人、住民としていってください。


北原 巖男(きたはらいわお) 元防衛施設庁長官。元東ティモール大使。現日本東ティモール協会会長。(公社)隊友会理事

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