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北原 巖男

トランプ大統領就任

 1月20日、ドナルド・トランプ氏が47代アメリカ大統領として復帰いたしました。

 僕はその前々日の18日、「今日のドナルド・トランプの強引な態度とやり方がいかにして生まれたかという背景に迫っている。」(1月17日付け日本経済新聞夕刊 映画評論家村山匡一郎) 「見習いでよちよち歩きだった彼を「あの」トランプに育て上げた男との出会いを描く。・・・本作に接しているかどうかで、3日後、米国大統領に就任する男への見方が変わるかもしれない。」(同日付け読売新聞夕刊 浅川貴道) 「トランプの幻影がいかに創り出されたのか、その一端が読み取れる。・・・かつてない、リアルなホラー映画を凝視すべし。」(同日付け毎日新聞夕刊)

 そんな映画紹介に刺激を受け、17日に日本で公開されたばかりの映画「THE APPRENTICE(アプレンティス‥ドナルド・トランプの創り方)」(監督アリ・アッバシ 脚本ガブリエル・シャーマン)を観に走りました。東京のど真ん中の映画館は、平日の昼間でしたが老若男女でほぼ満席。国民の関心の高さを感じました。(ちなみにアプレンティスとは、見習いとか弟子、徒弟を意味します。)

 辣腕弁護士ロイ・コーンと出会い、師弟のように指導を受ける若き日のドナルド・トランプ青年。世の中には、勝者と敗者の二つのタイプがあるとして、ロイがドナルドに伝授した勝つための3つのルール。驚きました。

 (ルール1)攻撃、攻撃、攻撃あるのみ

 (ルール2)何一つ認めるな。全否定で押し切れ

 そして、これが一番大事だとして、

 (ルール3)勝利宣言せよ、決して負けを認めるな

 今や、ドナルドは、映画の中のみならず、この3つのルールを完全に自分のものにして行動しているように思えました。

 日本時間の真夜中に行われる大統領就任式開始まで、僕はほとんど居眠り状態でしたが、その演説が始まるや一気に覚醒しました。演説内容が全て分かる能力は僕にはありません。でも、アメリカ第一(America first)を打ち上げ、世界で最も偉大で、最も強力で、全世界から「尊敬され、うらやまれ、称賛され、畏敬の念を抱かれる」といった主旨を彼が断じ、しかもそれを繰り返していることには、大きな違和感を覚えました。

 (be respected agaibe respected again/be the envy of every nation/most respected nation on earth/be respected again and admired again/inspiring the awe and admiration of the entire world)

 「我が国は再び繁栄し、世界中で尊敬されるようになる。我々はあらゆる国がうらやむ国になる。」「米国は再び、世界で最も偉大で、最も強力で、最も尊敬される国としての正当な地位を取り戻し、世界中の人々から畏敬と称賛を受ける国となるだろう。」「野心は偉大な国の生命線だ。今、我が国は他のどの国よりも野心的だ。米国のような国は他には無い。」「米国は信仰と善意を持つひとびとからも再び尊敬され、称賛されるようになるだろう。」

 世界がアメリカを尊敬し、称賛し、更に畏敬の念を抱くかどうかは、ひとえに1月20日に始まったアメリカを世界の国々や人々が、どう見るか、そしてどう判断するかにかかっています。トランプ大統領が就任演説で声高に言い切ることなどできるものではありません。

 彼の演説を聞いているとき、ふと、亡き父(第二次大戦時、兵長として満州・沖縄・台湾で従軍)が口にしていた國民學校の修身の教科書の文言が浮かんで来ました。

 曰く「日本 ヨイ 國、キヨイ 國。世界ニ 一ツノ神ノ國。日本 ヨイ 國、強イ 國。世界ニ カガヤク エライ 國。」

 アメリカ国民によって選出されたわが国唯一の同盟国のたぐいまれなる政権のスタートです。安全保障や経済・金融を含むあらゆる分野における対米政策策定の大前提は、まず石破首相とトランプ大統領のTOO LATEにならない信頼関係の構築です。急がれます。

 そして、それを基盤としながらも、主権国としての真に腹を据えた胆力のある対応を願って止みません。特に我が国にとって不条理な要求を迫り、圧力をかけて来た場合などにこそ、粘り強い、したたかな、オール日本としての外交交渉の真価が問われます。ひとりアメリカが勝利するためだけの威嚇に屈するわけにはいきません。

 就任当日に脱退したパリ協定やWHO等のマルチの国際協調についても、かじ取りは非常に難しくなって来ると思います。

 世界が尊敬し、うらやみ、称賛し、畏敬の念を抱く、そんなアメリカであれ、アメリカ第一であれ、と求め、働きかけ続けて行くことを躊躇するわけにはいきません。

  

北原 巖男(きたはらいわお) 元防衛施設庁長官。元東ティモール大使。現日本東ティモール協会会長。(公社)隊友会理事


宇宙アーキテクチャー
迅速かつ強靭な構築を

東京つばさ会講演会で
片岡晴彦元空幕長語る

〝第4の戦場〟脆弱性に直面している

講話を行う片岡氏


「宇宙安全保障の現状と課題」をテーマに

GPS無力化も
 かつて超大国米ソの競争の場であった宇宙開発に今や世界各国が参入しつつあり、1968年に上映された映画「2001年宇宙の旅」の世界が今や現実のものとなりつつある。安全保障、防衛において、宇宙を含めた広大な空間を舞台とした安全保障の概念が不可欠な時代が到来している。
 宇宙安全保障の歩みを振り返れば、「相手方のアセットは攻撃しない」との暗黙の了解があった米ソ二極構造下の冷戦期の方がむしろ宇宙は安定していた。
 我が国にあっては1969年の「宇宙の平和利用に関する国会決議」以来、防衛の宇宙利用がほぼ出来ない状態が続いたが、2008年に宇宙基本法が制定され、防衛の宇宙利用の道が開けた。
 そして、一昨年策定された戦略3文書により、宇宙安全保障の分野における対応能力の強化が本格的に進められることになった。
 現在。運用されている衛星の9割近くが低軌道に集中し、小型衛星による衛星コンステレーション(多数の人工衛星を協調して動作させる方式)の構築が進んでいる。
 これは安価な小型衛星の打ち上げが急増しているためであり、米国のスペースX社はすでに6000基以上の小型通信衛星を打ち上げている。ウクライナにおける宇宙安全保障の教訓を見るまでもなく、情報収集から作戦運用全般において衛星からのデータ活用が進んでいる。
 我が国に目を向ければ、日米等は今後宇宙利用を通じて戦略的優位性を確保する必要がある。今や、宇宙は作戦遂行の前提条件になり、宇宙は第4の戦場となりつつある。
 中国は、2026年までに、小型キラー衛星を約200機保有すると指摘されている。この衛星を全てのGPS衛星の近くに事前配置し、GPSシステムを機能停止に追い込むことが可能になるとの指摘もある。宇宙の安定的な利用を確保するためには、これらの脆弱性を局限する必要あり、米国は2019年に宇宙軍を創設し、宇宙システムの抗堪性の強化に取り組んでいる。
 我が国も2027年度までに、航空自衛隊の航空宇宙自衛隊への改編が行わる予定であり、宇宙安全保障関連予算も大幅に増加している。
 戦略3文書の策定を受けて、一昨年、我が国の宇宙安全保障にとって画期的な「宇宙安全保障構想(宇宙開発戦略本部決定)」が策定された。この構想では、「同盟国・同志国等とともに、宇宙空間の安定的利用と宇宙空間への自由なアクセスを維持すること」を目標とするとともに、追求すべき「安全保障のための宇宙アーキテクチャー(必要な全ての宇宙システムの構成要素を記述したもの)」が示されている。
 GPSシステムはいまや、軍のみならず民間においても必要不可欠な衛星システムになった。わずか15分間のGPS中断で、米国経済に約1500億円の損失を与えると予測されるまでになっている。中露は、GPSを無力化する攻撃的兵器の開発を進めている。
 このため、万が一GPSが使用できなくなったときの代替システムとしても期待されているのが日本版GPSである準天頂衛星だ。現在、4機体制でサービスインしているが、2026年からの7機体制へ向けて整備を着実に進めている。また、2030年代に、より抗堪性を強化するため、2030年代の11機体制へ向けての検討にも着手した。

人材育成も急務
 ミサイル防衛システムも、宇宙からの監視がなければ機能しない。弾道ミサイルが発射されると、早期警戒衛星が初度の発射探知を行い、この探知情報に基づき迎撃態勢へ移行する。
 さらに、衛星通信システムの分野でも、低軌道通信衛星を含め宇宙利用の更なる拡大が図られている。「マルチドメイン」と言われる海上、陸上、航空、サイバー空間、宇宙空間の5つの領域を統合する衛星通信システムの構築をめぐって各国が競い合うとともに、同盟国間で通信帯域を共有する枠組みの構築も進められている。
 また、ISRT(情報、監視、偵察、ターゲティング)能力の獲得を目的とした低軌道監視衛星コンステレーションの構築を各国が進めている。
 我が国でも、2027年までに構築することを目指して、約3000億円の概算要求を行なった。このコンステレーションは情報機関に限定することなく、自衛隊のあらゆる作戦部隊を支援するものに育てる必要がある。また、この構築には、衛星打ち上げ射場能力(洋上打ち上げを含む。)の拡大や小型衛星の量産化という取り組みも必要になる。
 以上のように、片岡氏の講話は我が国の宇宙安全保障に向け示唆に富むものであった。
 宇宙での戦争を防止するためには、「宇宙は今、脆弱性の窓に直面しているとの認識を持つことが重要であり、いかに迅速に強靭な宇宙アーキテクチャーを構築するかが鍵になる」。更には「安全保障で取り扱う領域が急速に静止軌道、月そして火星にまで拡大していく。人材の育成も急がねばならない。」と結び講演を終了した。

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