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読史随感〈第164回〉
神田 淳

日本の国のアイデンティティ

 新年を迎えるにあたり、改めて日本はどのような国か考えてみた。日本の国柄、国のアイデンティティである。日本の歴史、地理、文明、精神文化、宗教、社会的慣習、家族のあり方、及び国の統治形態等について、世界的な視点でその特性をよく理解すれば、日本のナショナル・アイデンティティが見えてくるだろう。

 日本の歴史は古く、国は自然発生的である。アメリカや旧ソ連のように人工的につくられた国ではない。そのため、日本人の国への帰属意識は自覚されないほど自然に生まれている。あまり意識にのぼらないが、日本人の国への愛着心も強い。国民の意識は、政府を基本的に信頼している(世界は政府を信頼しない国が多いが)。こうした意識は、日本の長い歴史が比較的善政の歴史だったことから来ると思う。

 日本は島国であるため、歴史的に大陸の諸民族のような民族の存亡をかけた闘争を経験していない。そのため、国の存立に関する危機意識に大陸諸国のような敏感さがない。かつて、「日本人は水と安全はタダだと思っている」、という警句があったが、「安全」に国家の安全(セキュリティ)を含めることがきる。この警句が島国日本の恵まれた自然環境とセキュリティ環境を象徴している。日本が平和の歴史が長く、国柄が平和指向なのは、島国の環境と無縁ではない。

 「日本のナショナル・アイデンティティは和である」には異論もあるだろう。しかし世界的に見て、「日本は和の国」と言ってよいと私は思う。日本は戦国時代も経験し、近代は対外戦争も経験した。しかし、日本の歴史の基調は平和である。和国、和食、和服、和洋といった日本語にみられるように、「和」は日本そのものを意味する。古くから「日本は和の国」だとの自己認識があった。聖徳太子が定めた十七条憲法には、国のあり方の第一条に和が置かれている。日本人は闘争、不和を好まない。和を好む。

 我々に自覚はほとんどないが、日本文明は世界的に特色ある文明である。アジアの文明だが、意外に西欧文明と共通点がある。西欧と同様、中世に封建時代を経験した歴史をもつのと、近代に西欧文明を意識的に学び導入したためだろう。古代に漢字を導入し中国文明を学び、同じアジアで近隣の中国と類似した文明と思いがちだが、実際はかなり違う。文明のコアとなる宗教等精神文化の他、社会慣習、家族観、国の統治形態が違っている。

 日本文明のコアとなる宗教等精神文化の根底にあるのは、神道である。神道はキリスト教や仏教のような論理体系をもたないが、清浄の美と、清明正直、すなわち、心身を清浄にし、清らかで、明るく、正直に生きることを道徳的、生活感覚として尊ぶ信仰である。清浄の美を尊ぶ文化は、日本の掃除、清潔、入浴の文化として世界に知られている。

 最後に国の統治形態として天皇の存在を日本のナショナル・アイデンティティに挙げたい。世界的に見て日本の天皇の特色は、非常に古い時期に国が成立したときから現在までずっと一系で続いていること、および国を統治するにあたって、歴史の早い時期に最高権力者ではなく、最高権威者となって存在し続けことである。このような国は世界中で日本しかない。

 日本の国の発展を希求するとき、日本のナショナル・アイデンティティと思われるものを、誇りをもって肯定的に認識することに意味があると思いたい。

(2025年1月1日)


神田 淳(かんだすなお)

 元高知工科大学客員教授。

 著作に『すばらしい昔の日本人』(文芸社)、『持続可能文明の創造』(エネルギーフォーラム社)、『美しい日本の倫理』(https://utsukushii‐nihon.themedia.jp/)などがある。



百里茶道部 AFFJで野点を

AFFJ野点支援班として高官の接遇にあたった隊員ら


 百里基地茶道部は10月17日、AFFJ野点(のだて)支援班として湯茶の提供(お運び)を実施させていただきました。

 構想から本番直前まで、たび重なる要領見直しに加えて高価な茶器に細心の注意を払う取り扱いもあり、一部難しい面もありましたが、中空及び補給処隷下の高練度者のおかげで、無事役目を果たすことができました。

 参加された高官からは、「なぜ茶道を始めたのか。何年やっているのか。先生になれるか」など、多くの質問があり、好評であったと感じています。

 この茶道支援を通じて、普段の勤務では関わることのできない諸外国高官の接遇に携われたことは、私にとって良い経験になりました。また、航空幕僚長から直接感謝のお言葉を頂き、茶道をやっていてよかったと感じています。

 今回はお運び所作のみでしたが、今後は亭主(お客様の目の前でお点前を披露する)となれるように技能を磨き、航空自衛隊の文化交流の一翼を担えるように今後も精進していきたいと思います。

 (百里基地茶道部・藤田怜恵士長)

 

※AFFJ=空軍参謀長等招へい行事


海幹校 創立70周年式典

出席した学校職員ら


 令和6年で創立70周年を迎えた海上自衛隊幹部学校は9月14日、創立記念式典を開催した。

 学校職員、学生のほか、歴代学校長、部外講師、後援会会員及び留学生派遣国在京武官をはじめとする来賓を前に、江川学校長は、「柔軟で論理的な思考法を重視し、広い国際的視野と深い洞察力に裏付けられた健全な判断のできる上級部隊指揮官又は上級幕僚たる人材を育成するため、幹部学校全体が海上自衛隊のシンクタンクであることを肝に銘じ、「知学一致」を目標として教育と研究双方の充実強化を推進する」と決意を新たにした。

 式典に引き続き、記念講演「軍事組織に求められる高等教育」というテーマで戸部良一防衛大学校名誉教授から、学生の鋭い問題意識と教官の教育・研究能力が教育の大きな要素であると、学生と教官の真剣かつ自由闊達な討論を通じたリーダー養成への期待が述べられた。

 幹部学校は昭和29年9月1日に横須賀市田浦に創立され、小平駐屯地、市谷駐屯地への移転を経て、平成6年に現在の目黒に移転し30周年の節目の年を迎えた。これまでに5210名の幹部学生を輩出した。


統幕今井将補、
日豪JLBへ

後方分野について意見交換など行う

豪軍統合兵站コマンド将官と写る今井陸将補(右)


 防衛省統合幕僚監部首席後方補給官、今井将補は11月5日から同6日の間、豪州キャンベラで開催された日豪後方連絡会議(日豪JLB)へ参加した。

 日豪JLBは、日豪2カ国の後方分野において意見交換、部隊訪問プログラム等を通じ防衛交流の進展、両国の相互理解、信頼醸成及び情報共有を図るもの。

 平成30年度から各年度日豪相互に往来し実施しており、首席後方補給官が訪豪する日豪JLBとしては3回目の実施となった。

 豪州キャンベラの豪国防軍統合能力本部を訪問し、両国の後方分野における情報共有や議論を通じ相互理解を深めるとともに、今後の協力を加速させることで合意した。




練習ヘリTH480B、無事故運用10年

陸自航校宇都宮校 記念式典開く

間もなく10万時間到達

記念式典の出席者 


操縦士500人育成

 陸上自衛隊が運用する練習ヘリコプター「TH‐480B」の無事故運用10年を祝う記念式典が11月28日、航空学校宇都宮校で開催された。式典では、機体の安全性と運用の成果が称賛されるとともに、次世代の航空訓練に向けた決意が新たにされた。

 陸自航空学校の更谷光二学校長(陸将補)は式辞で、2014年に教育機として全30機が導入されたTH‐480Bがこれまでの10年間で約505名の新人操縦士を育成し、約400名の整備員がその維持に携わったことを紹介。「延べ運用時間は本日時点で9万9650時間に達し、間もなく10万時間に到達する」と述べた。

 さらに、航空安全意識の高い教育体制の成果を強調し、今後も教育環境の充実に向けた取り組みを続ける方針を示した。

 また、更谷学校長は「この成果は関係者全員の努力と行動力のたまものであり、エンストロム社およびエアロファシリティー社の補給整備支援があって初めて成し遂げられた」と謝辞を述べた。

 TH‐480Bを日本に供給したエアロファシリティー株式会社の木下幹巳代表取締役社長も登壇。2011年に初号機が仙台空港で納入された際のエピソードを振り返り、「納入直後に東日本大震災の津波が仙台空港を襲ったが、機体が被害を免れたのは奇跡的だった」と語った。

 そして「陸自航空学校の航空安全を確保された航空機運用に深く感謝するとともに、これからも真心を持ってサポートを続けていきたい」と述べた。

 式典には米エンストロム社のトッド・テツラフ社長も出席。同社フラッグシップモデル、TH‐480Bが陸自のパイロット育成に貢献している点を評価し、「10万飛行時間という記録は世界的にも類を見ない偉業だ」と称賛した。また陸自が取り組む災害救援や国際平和活動に言及し、「引き続き陸上自衛隊が任務を完遂するために最大限支援する」と述べた。

 陸自では人的資源の効率的な活用を目指し、整備分野への民間力導入を進めている。更谷学校長は「これまでの実績におごることなく、より充実した教育環境の整備に取り組む」と決意を表明した。

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