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学生の初ソロ飛行
陸上自衛隊航空学校

明野

陸上自衛隊ヘリコプターパイロットの誕生

 陸上自衛隊のヘリコプターパイロットを多数輩出している「陸上自衛隊航空学校」。本校は三重県伊勢市の明野駐屯地(学校長兼明野駐屯地司令・大西裕文陸将補)にあり幹部パイロット等の教育他を行っている。さらに栃木県宇都宮市の北宇都宮駐屯地には宇都宮校(校長兼北宇都宮駐屯地司令・大西正浩1陸佐)があり、陸曹パイロットの教育等を。また、茨城県土浦市の霞ヶ浦駐屯地にある霞ヶ浦校(校長・山野順良1陸佐)では、整備・通信等の教育を行っている。陸上自衛隊が保有する400機強の航空機を約7000名で支えている航空科。2月21日、明野本校第2教育部で幹部航空操縦課程(POC)学生が初めてソロ飛行する瞬間に立ち会った。


 朝7時40分、ブリーフィング10分前。昨年12月からPOC課程を受講している学生10名はすでに集まっている。昨夜から入念に用意したホワイトボードに書かれていることの最終チェックも済ませてある。7時49分、窓ガラスが割れそうな声で学生五訓を全員が唱和する。「今日の訓練、初めて教官なしでソロ飛行が出来るかもしれない!」学生の顔は真剣そのもの。後ろ姿に緊張が漲っている。


「理由を考えないと対策は考えられないよ」

 まずは気象ブリーフィング。前日の気象情報から1週間後の気象予報までを掌握し、今日の課目実施条件と照らし合わせる。後、航空情報ブリーフィング、教官による訓練説明、学生危険見積ブリーフィング、総括ブリーフィングと続く。ブリーフィングの担当は学生が持ち回りで行う。飛行するには、気象予知も危険予知も必要だ。ブリーフィングの準備だけで相当な知識と時間を使う。新しい課目を行う前のブリーフィング内容は、休日もなく研究し、他の学生とも話合い更に詰める。各ブリーフィング後には教官指導が入り、学生は緊張した面持ちで考え応える。25~6歳の若者が、この緊迫した空気の中で指導された事がちゃんと頭に入り即座に応えられる事に驚いた。

 全体のブリーフィングが終わると学生2人ペアに教官1人で各航空機ごとのグループブリーフィング。学生も真剣なら教官はもっと真剣。「飛んでこい、無事に」。


「学生の状態が良くなければ、かわいそうだけどソロ飛行はなしだ」

 学生たちはブリーフィング室を出て、オペレーションに今日の飛行計画を提出しに行く。そして飛行場へ。航空機へと続く地上に描かれたオレンジ色のラインをどんな思いで歩いているのか。自分が搭乗する航空機に着くと航空機の状態を確認するための飛行前点検。小さな所にも顔を付け、機体の下にも潜り込む。そして、操縦教官に飛行前点検の結果を報告し、コックピットに座る。始めは、教官も搭乗し学生と航空機の状態確認を行う。1周10分ほどの場周飛行を2回繰り返した。そして…教官は降りた、「いつものようにやって来い」。学生初ソロ飛行の決定だ。


「自分が飛ぶより緊張する」

 学生しか乗っていないUH—1J。エンジンの回転数が上がってくる。間もなく準備完了を知らせるUH—1Jの上下にある衝突防止灯の赤いライトが点灯した。離陸地点を越えると同時に機首が上を向き始めた。力強く飛び立っていくUH—1J。UH—1Jを見送り視線を地上に戻した時、地上で見守っている教官の手がレバーを握っている手つきに見えた。


 無事初ソロ飛行を終えた学生に感想を聞いた。「楽しかった。今までで一番有意義だった」「自分達だけで上空に行くと、如何に今まで教官に依存していたか解った」「教官のいう事を守り、いつもどおりやればできるんだという事が解って、モチベーションが上がった」「教官には空に行った自分たちの行動が筒抜けになっているって思う時点でまだまだ頼っているんだと思った」。

 今年8月無事にウィングマークを取得した時、今日の事を彼らは心の底から感謝することだろう。若いヘリコプターパイロットの活躍が楽しみだ。