自衛隊ニュース
読史随感<第160回>
神田 淳
自由民主主義が良い
民主主義が世界的に後退しているようである。アメリカの非政府組織「フリーダムハウス」の報告書(2022年)によると、民主主義国家の数は2005年89カ国をピークに減少し、21年には83カ国となった。一方、参政権や報道の自由などに制限を加えている専制主義国家は、2005年には45カ国だったが、2021年には56カ国に増加した。
アメリカの政治学者フランシス・フクヤマは、1992年『歴史の終り』を著し、自由民主主義が普遍的、最良であって、共産主義を含む過去のあらゆるイデオロギーより優れており、自由民主主義が世界的に勝利すると説いた。この主張の背景に、1889年東欧民主革命が起き、1991年ソ連が崩壊、東西の冷戦が共産主義に対する自由民主主義の勝利で終わる世界の変化があった。
フクヤマは、歴史が自由な民主主義に向かって収斂していくと見、冷戦終結後、世界は遅かれ、早かれ民主的な国家に向かうと思われてきたが、近年その見方が揺らいでいる。東欧では、ポーランドやハンガリーなどに共産主義並みの強権政治が復活し、世界で民主主義が最も良く機能しているとみられる西欧でも、オーストリア、ベルギー、イタリア、ポルトガル、英国などで民主主義指数が悪化している。そして自由と民主主義のリーダーであるはずのアメリカで、民主主義が後退している。前大統領トランプ氏が大統領選の結果の正当性に異議を唱え、2021年トランプ支持者らが大統領選に不正があったと訴えて、アメリカ合衆国議事堂を襲撃した。スウェーデンの民主主義・選挙支援国際研究所(IDEA)は2022年、米国を「民主主義の後退している国」に分類した。同研究所によると、過去10年余で、民主主義の後退国は約2倍に達し、米国の他、インド、ハンガリー、ポーランド、トルコ、スロベニア等が民主主義後退国に含まれる。
世界的に民主主義が退行した背景に、権威主義国家を代表するような大国中国とロシアの大きな影響力がある。中国は共産党の独裁体制で経済発展を遂げ、いわゆる西欧的民主主義を否定するようになった。ロシアはソ連崩壊後急激な国家の民主化につまずき、権威主義国家運営で復活して現在に至っている。G7の力は相対的に低下し、G7に中国、ロシア、インド等の加わったG20の力が増している。中国、ロシアはグローバルサウスと呼ばれる新興・途上国に影響力を強めている。グローバルサウスはロシアのウクライナ侵攻にも中立的で、国の統治体制も中露をモデルとする国が少くない。
何といっても、中国の経済発展・大国化の影響が大きい。英エコノミスト紙のEIAによると中国は「独裁政治体制」に分類され、その「民主主義指数」は世界167カ国中148位にランキングされるなど、中国は民主主義国と見なされていない。しかし、中国はこうした西側の見方を否定する。民主主義には各国の歴史や文化に根ざした形態があり、中国には中国の民主主義があると主張している。
分断化が進み、民主主義が退行するような世界の中で、日本はどうあるべきだろうか。日本は立派な民主主義の国で(ちなみに英国エコノミスト紙EIAは日本を「完全民主主義国」の一つに、スウェーデンIDEAは日本を「中程度の民主主義国」に分類している)、日本は今後も民主主義が最良であると信じ、民主主義による国家運営を成熟させ、民主主義でやっていくのが良いと思う。世界の民主主義の成長の歴史と日本の民主主義について、次回もう少し考えてみたい。
(令和6年11月1日)
防衛省・自衛隊
地方協力本部
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