自衛隊ニュース
読史随感 神田淳
<第154回>アメリカの政治暴力と民主主義
7月13日トランプ前大統領が、ペンシルベニア州で開かれていた共和党の選挙集会で狙撃された。弾丸は右耳の上部を突き破り、右耳から出血。もし数センチずれていたら頭部に命中して落命していた。複数回発砲があり、集会参加者の1人が死亡し、2人が負傷した。狙撃犯は同州に住む若者で、その場で警護官に射殺されたため、動機は不明であるが、次期大統領になる可能性の高いトランプの暗殺未遂事件であった。
近年のアメリカは、政治的暴力を容認する傾向が増していると見られる。カルフォルニア大学デービス校の調査によると、回答者の80%が「政治的暴力は一般的に良くない」と答えているが、20%の回答者は「時々、あるいは常に正当化される」と答えている。また、アメリカの公共ネットワークによる最近の調査でも、20%の回答者が「国を正常な軌道に戻すためなら暴力に訴えても良い」と答えている。
カルフォルニア大学サンディエゴ校のバーバラ・ウォルター教授は、過去の政治的暴力や内戦について調べた結果、近年のアメリカが政治的暴力の生じるリスクの高い国になっているという。教授は、内戦や政治的暴力に見舞われた国の状況を分析し、2つの重要要因を挙げた。一つは、「アノクラシー」。世界には民主主義国家と独裁的専制国家の中間に、「アノクラシー」と呼ばれる政体の国がある。内乱の起きるのは民主国家でも専制国家でもない、部分的民主主義のアノクラシーの国である。専制国家から民主国家への移行過程、民主国家における民主主義の退行過程を含むアノクラシーの国家は、政情不安や内戦に至る危険性が専制国家の2倍、民主主義国家の3倍あるという。
重要要因の二つ目は、「民族、宗教、人種的アイデンティティによる政治的分断の激化」である。内戦に至る国には「民族、宗教、人種的なアイデンティティ」に基礎づけられた政党が存在する。アイデンティティに訴える政党は政治信条に基づく政党よりも柔軟性を欠き、妥協を一切拒否する。過去世界において、内戦は二つの特徴ーーーアノクラシーとアイデンティティによる政治的分断ーーーを持つ国において発生している。アメリカでも二つの特徴が顕著になりつつあり、政治的暴力の生じるリスクの高い国になっているという。
アメリカの歴史を振り返ると、政治的暴力と政治テロが多発していることがわかる。暗殺された現職の大統領に、リンカーン大統領、ガーフィールド大統領、マッキンリー大統領、ケネディ大統領の4人がいる。暗殺未遂に遭った大統領にセオドア・ルーズベルト大統領とレーガン大統領がいる。ロバート・ケネディ上院議員は大統領選遊説中に暗殺された。最近ではスカリス下院議員が親善野球中にテロに合い、重症を負った。また、カバノー最高裁判事の暗殺未遂事件があり、ペロシ元下院議長の自宅が暴徒に襲われ、夫が負傷した。
スウェーデンの民主主義・選挙支援国際研究所(IDEA)は、世界の民主主義の現状を分析した報告書の中で、2021年初めてアメリカを「民主主義が後退している国」に分類した。アメリカは日本にとって最も重要な国であるが、はたして実際、アメリカは政治暴力の頻発する、民主主義の劣化した国になっていくのだろうか。
私はアメリカをなお、信頼している。国としてロシアや中国よりずっと良い。日本はアメリカの同盟国である。日本はよほどしっかりしなければならないと思う。
(令和6年8月1日)
神田 淳(かんだすなお)
元高知工科大学客員教授。
著作に『すばらしい昔の日本人』(文芸社)、『持続可能文明の創造』(エネルギーフォーラム社)、『美しい日本の倫理』などがある。
防衛省・自衛隊 地方協力本部
進路担当者研修
<宮城>
宮城地方協力本部(本部長・澤村満称子1陸佐)は6月26日、27日の両日、高校進路担当教諭を対象とした「防衛大学校及び海上自衛隊研修」に宮城県内の高校教諭を引率して参加した。
初日は、海上自衛隊横須賀地方総監部において施設や艦艇見学のほか、海上自衛隊横須賀地方総監より各種任務や国内外における活動状況についての詳しい説明を受け、職業魅力を十分に伝えることができた。
翌日は防衛大学校を見学し、開校の歴史や学生教育の内容、卒業後の任官先と役割について説明を受け、防衛大学校進学の意義を肌で感じてもらうことができた。また、校内で参加高校の卒業生と会う機会があり、成長した教え子に感動する場面も見られた。
教職員からは「海上自衛隊のさまざまな仕事内容や役割、重要性がよく分かりました」、「防衛大学校を具体的に知り、進学先として生徒に積極的に進めて行きたいです」などの声も聞かれた。
宮城地本は陸海空研修を通して、今後も多くの教職員等に自衛隊の魅力を発信していく。
10年ぶり護衛艦
<熊本>
熊本地方協力本部(本部長・笹島昭佳1陸佐)は水俣港で5月25日、26日の両日、水俣商工会議所が主催する「第69回恋龍祭(みなまた港フェスティバル)」を支援した。
恋龍(れんりゅう)祭は昭和31年、水俣港が貿易港に指定されたのを機に「みなまた港まつり」として開催されるようになった。さまざまなイベントを同時開催して始まり、現在は水俣の沖合に浮かぶ「恋路島(こいじしま)」と市街地を見下ろす「龍山(たつやま)」から付けられた「恋龍祭」に名称を変えて親しまれている水俣市最大のイベントである。
イベントは、自衛隊をはじめ、海上保安庁の巡視艇、国土交通省の環境整備船等が参加しイベントを盛り上げた。会場は夏日の気温に加え、多くの来場者で賑わいを見せ、熱気にあふれた。
自衛隊エリアでは海上自衛隊の護衛艦「きりさめ」(佐世保基地)が一般公開を行い、76ミリ速射砲と高性能20ミリ機関砲の作動展示では来場者から驚きの声が聞かれた。水俣港に護衛艦が入港したのは平成26年以来、約10年ぶりとなった。
陸上自衛隊の西部方面隊特科連隊第1大隊(北熊本)は19式装輪自走155ミリ榴弾砲及びFH70を展示。西部方面音楽隊(健軍)は「きりさめ」をバックに音楽演奏を披露した。
募集広報ブースでは、佐世保地方総監部広報推進室のブルーマリンオペレーション、北熊本駐屯地曹友会とともに自衛隊の活動のパネル展示やオリジナルグッズの配布、制服の試着体験等を行い、自衛隊に対する理解を深めてもらった。来場者からは「護衛艦は大きくてカッコイイ」、「陸上自衛隊の装備品は迫力がある」と感激する声が聞かれた。
イベント初夜には花火大会も催され、「きりさめ」の電灯艦飾が花火の鮮やかさに彩りを加え、来場者を魅了した。
熊本地本は引き続き地域の活動に積極的に参加し、地域の皆様に自衛隊を身近に感じてもらい理解促進、認知度向上、募集活動に邁進していく。
募集解禁でPR
<栃木>
栃木地方協力本部大田原地域事務所(所長・高井1陸尉)は7月1日から同5日の間、募集解禁に伴い市街地広報「自衛隊を知ってもらうキャンペーン」に打って出た。
大田原地域事務所は、少子化に伴い募集状況も厳しく、入隊者が減少傾向にあるため、所長以下全員で栃木地本本部、募集相談員、家族会、防衛協会等の支援を受け次の五つの作戦を決行した。
【作戦(1)】大田原管内主要駅においてのPR活動(人に、話しかける)【作戦(2)】主要道路における1/2トントラックによる巡回広報(人に、見せる)【作戦(3)】卒業生を伴った学校訪問(人に、自衛官に触れてもらう)【作戦(4)】地域ポスティング及び回覧板広報3万枚(人に、知ってもらう)【作戦(5)】事務所前にパジェロ展示及び旗振り(地域事務所の存在アピール)
期間中は総力戦で挑んだ。駅での市街地広報では、駅ロータリーをパジェロが巡回。臨時勤務中の菊地士長(東部方面特科連隊第2大隊所属の女性自衛官)及び募集相談員及び家族会が応援に駆けつけてくれ、積極的に学生に声を掛け、自衛隊のPRをしてくれた
大田原地域事務所は今後も地域の協力者と連携し、「知ってもらう」広報で募集環境のさらなる強化を図っていく。
企業社員招く
<三重>
三重地方協力本部(本部長・水野克輝1陸佐)は6月17日、第49普通科連隊があいば野演習場で実施した、令和6年度第1次連隊野営訓練に即応予備自衛官雇用企業を招へいした。
三重地本からは即応予備自衛官2名が午前と午後に分かれ訓練に参加。即応予備自衛官を雇用する企業からは、各社社員2名ずつが参加した。
あいば野演習場内では重い鉄帽および耳栓を装着し、第49普通科連隊第科長より訓練内容及び81ミリ迫撃砲の概要等の説明を受けた。迫撃砲が発射されると、迫力の音と衝撃に参加者は驚きの表情を見せた。
また、同僚である隊員の動きが確認できた際は喜びの表情を見せ、「職場でもテキパキと機敏な動きで業務に打ち込む姿が印象的だったが、即応予備自衛官として培った動きだったと感じることができた。普段は見ることのできない姿でカッコ良かったです。貴重な訓練を間近で見れてうれしく思います。職場の同僚や上司にも訓練の様子を伝えたい」と語った。
引き続き、この様な機会を活用し予備自衛官等制度に対す更なる理解促進及び即応予備自衛官が訓練招集等に安んじて出頭できる環境づくりに寄与していきたい。
給養員の魅力を
<大田>
東京地方協力本部大田出張所(所長・田中1海尉)は5月15日、東京都大田区に所在する東京誠心調理師専門学校において開催された学内合同企業説明会に参加した。
同校は「健康で安全な食を目指し適応する」ことをコンセプトに調理師を養成している専門学校で、本説明会には飲食業界企業38社が参加する中、公務員は自衛隊のみの参加であった。
大田出張所所属の広報官は、説明会会場において自衛官候補生の募集説明に重点を置きつつ、海上自衛隊給養員を中心とした業務内容及びやりがい等、自衛隊の魅力を伝えた。
説明会に参加した学生から「自衛隊に対するイメージが変わった」、「自衛隊を職業の選択肢の一つとして考えたい」等の感想を聞くことができ、自衛隊に対する理解の促進及び受験意欲の向上を図ることができた。
大田出張所は今後も学校や募集対象者に対しニーズに即した募集広報活動を実施するとともに、地域に密着した広報活動を行い自衛隊への理解と信頼を深めていく。