防衛ホーム新聞社・自衛隊ニュース 防衛ホーム新聞社 防衛ホーム新聞社
   2002年12月15日号
 1面 2面 3面 6面 7面 9面 10面 11面 12面

防衛政策の実現へ向けて1分1秒が真剣勝負
石破防衛庁長官、就任特別インタビュー
テロ対策やPKOなど、我が国の防衛問題について明解に答える石破防衛庁長官(左は所谷社長)=11月27日、大臣室で
 一昨年の2月、ゴラン高原から帰られた早々に副長官として対談をさせていただきました。今度は国務大臣・防衛庁長官という立場でお話しを聞かせていただきます。
 そうでしたね。ゴランでの自衛隊の活躍を強烈な印象として受けとめていた時でした。
 早速ですが、防衛庁長官就任の抱負をお聞かせください。
 抱負と言えば、就任の時に申し上げましたように、1年365日、1日24時間、1分1秒真剣勝負だと、こう言ったのは自分に向かって言ってるつもりなんです。我々いつまでいるか、正直それは政治状況によって変わりますし、分からない。だけれども今色々な議論があって「存在する自衛隊から働く自衛隊へ」ということが言われているけれど、そこで法制の面においても運用の面においても装備の面においても、今起こってきた現実的な議論を本当に軌道に乗せてきちんとした答えを出さなければいけないのだろうと思います。せめてそのレールだけは敷きたい、というのはあるんですね。人が代わってもその議論がきちんと続いて行く、そういうレールと推進力みたいなものだけはやりたいなと思っています。今日1日で、1週間で、ひと月で、何がどこまで進んだのか、ということをきちんと検証するそして一つ一つ形にしていくという気持ちは持ち続けたいなと思っております。
 クラウゼビッツの「戦争論」を読破された数少ない政治家であると伺っていますが。「政治の最終章が戦争だ」という意味のこともあります。
 「戦争論」は読みましたが全部読んで理解しているなどとは申しません。毛沢東が言ったといわれる「戦争とは血を流す政治であり、政治とは血を流さない戦争である」というのは実に感銘を受けますね。日本人というのは、いわゆる戦争論の中にある『戦争は政治の延長である』みたいなのは、「何を馬鹿なことを言うんだ戦争にならないために政治があるんじゃないか」、という感じでしょうし、毛沢東が言ったといわれる「戦争とは血を流す政治であり、政治とは血を流さない戦争である」というのは、日本人には絶対受け入れられない概念だと思います。私がこれからそれを前面に出して議論をしようなんて夢にも思っていません。ただ世の中の人というか、政治家の中にはリアリズムというのかそういう認識を持って国の政治をやっている、そういうところと我々は色々な関係を持って国の平和と安全・独立、アジアの平和を築いていかなくてはならない。そういう時に、「私は純粋無垢ですよ、私が綺麗なら皆さんも綺麗ですよね」、という世界で本当に目的たる平和と安全が築けるかというと、それは違うのではないかということです。
 わが国のテロ対策および北朝鮮問題についてお聞かせください。
 和解としては、官庁間協力みたいなことでいろいろなものをお貸ししたりということもあるのでしょう。それで、一般の警察力だけで対応しきれなければ、治安出動ということになるのでしょう。昨年、法改正を致しまして、治安出動を下令するかどうかを判断するための情報収集という規定も作ったわけで、法的な枠組みは一応作ってあると思ってます。それが本当に動くのかという、先日の北方と北海道警察の図上訓練のような検証を今始めたところであって、そうすると実際の問題点というのはたくさん出てくると思うんですよ。「治安出動」などは自衛隊法が出来た時からあるわけです。だけど彼らもしたことがない、警察との意見交換も実際に行ったことはほとんど希である。それで本当に動くのかというところを今実際に大急ぎでやってるところです。法的には対処可能だとしても、実際にそれが動くかどうかということ。「法律は変えなくてもいいけど運用はこういう風に変えるべきだ」ということを現実の答えとして出す、ということが冒頭に申し上げたことと繋がるわけであります。
海上自衛隊初の国際観艦式で、小泉首相とともに外国艦艇を観閲する石破防衛庁長官(10月13日、護衛艦「しらね」で)
国連決議に基づいた責任を果たす自衛隊
北朝鮮については、北朝鮮が何のために核をもつのだろうか、遊びや冗談で持つわけではないのであって、核開発しているとすれば明確な政治的意図の下に核開発をやっているのだろうということです。だから、その北朝鮮が核を使うことがない状況をどうやって作るかということなんだろうと思います。「核を持っているのだ」と、「この核を廃棄してほしければ経済支援しろ」という話だとすれば、では「経済支援したら本当に止めるのか」ということなんでしょうね。そしてまた、今まで瀬戸際外交みたいなことをやってきて、その都度その都度、ひどい目に遭ってきたわけです。我々が色々と人道的な配慮、それから暴発しないため北朝鮮の体制崩壊したらもっと混乱が起きるということで色々なことをやってきました。コメの支援を何度もやってきた、そしてKEDOに対する支援もやってきた。しかしそれによって北朝鮮から得られたものは何だったのか、それはテポドンであり、工作船であり今回明るみに出た拉致であったと。「今度はそういうことはありません」という担保はどこにもありません。これからはそういう淡い期待ではなく、正常化交渉を行い、拉致や工作船はやらない、核は廃棄しミサイルも撤去するということが確認されなければ経済支援は行なえない、ということは崩すべきだとは思っていません。そういう現実に基づいた交渉が必要だというように思っております。
ただ、「例の枠組み合意というのは米朝間において行なわれたもので日本は関係ない」、という話をよく北朝鮮はしますが、そうではないでしょう。国際的な合意というものを遵守するのだということであり、核の問題はNPT(核兵器不拡散条約)体制の問題であり北朝鮮はNPTを抜けてないわけですから、それでIAEA(国際原子力機関)が査察を行なうということですから、日本はNPT体制をきちんと推進する。そしてIAEAの査察を日本がしっかりと受けているように、北朝鮮も受けるべきなのだと、という国際的な枠組みに北朝鮮を導いていくことが必要なんだろうと思っております。

自衛官にふさわしい処遇を
 先般北方と警察が共同図上演習を行ったとのことですが、こういった演習はこの先、全国的に展開されるのですか。
 警察官にしても自衛官にしても第一線でその地域の治安を保つのだと、そしてわが国の治安に対して攻撃を加えるものを排除するのだという目的を持ってやっているわけですから。そこにおいて働く自衛官と警察官の共通の使命感というのはあるのだろうと思います。実際の問題点がいくつも浮かび上がってくる現場で議論を繰り返していく、それを積み重ねて「霞ヶ関」と「市ヶ谷」あるいは「永田町」そこできちんと決断を下していく事が大事なのだろうと思います。
 PKF(国連平和維持隊)後方支援業務隊については確実な成果と実績をあげています。今後さらに、PKF(国連平和維持隊)本隊業務まで求められたらいかがお考えですか。
 PKF本体業務の凍結解除はいたしておるわけです。現在、東チモールで行なわれているのはPKFではなくて後方支援業務ですから、解除はしたけれどまだ実際にPKF本体業務は行なっていない。ということですので、PKF本体業務の凍結解除をして実際に行くとなった時に特に武器の使用について、今のままで本当に安全に任務が遂行できるかということはもう一度検証してみる必要があるような気が私はしております。もちろん、それは国会における議論ですから、まだ前回のPKO法改正の時にはその議論をきちんと詰めたか、ある意味実際に東チモールが迫っていたので凍結解除をしたという一面はあるわけです。ですが、東チモールで行なうのは後方支援業務でしたから、本当にその議論に直面して徹底して議論が行なわれたとは思っておりません。

11月11日、衆議院有事法制特別委員会で答弁する石破防衛庁長官。右は額に手をやる福田官房長官。(共同)
 警護の任務を与えるかどうかがよく言われますが。
 前回のPKO法改正の時はそれは見送られたわけであって、あらゆる議論と共通することですが、本当に我々が国連から与えられたその任務をきちんと遂行して、PKOの目的たる平和の維持、という活動がきちんとできるかという一点なんだと思います。抑制的に武器の使用は行われるべきだけれども、本当に任務が安全に遂行されるかという検証は、私は今後も必要なのだろうと思っています。それは法改正を伴うものですから国会の議論によるべきだと思っています。
 インド洋に行っている海上自衛隊ですが、甲板の温度は80℃になるということで、いかにも過酷な状況下にあります。
今の時点でははっきりわかりませんが、中谷前長官も行かれた事ですし国会日程等状況が許せば私もインド洋に行ってきたいということで検討しております。行った人間でなければ分からないから。行って話せば「そんなに大変なの」、というのが分かっていただける。直進で同じ速度を保ちながら6時間、その操艦技術だけでも大変なことであって、テロというのは兆候がないからテロなのであって、いつ何が起こるか分からない極度な緊張状態で6時間。そして気温は40℃以上、甲板の温度は80℃。居住区に帰ってどんなにエアコンかけても30℃位だそうです。まだ3段ベッドの艦も行ってるわけですよ。そういった、ある意味極限の状況の中でテロ根絶という国連決議に基づいた責任を果たすためにやっているのです。「これはアメリカのためだとかいった話ではなくて、国連決議に基づいた国際社会の責任を果たすためにやっているのですよ」という話を説明すれば聞いた人は納得してくれると思いますけど、その説明の努力というものを我々政治の側がしっかりとしなくてはいけない、ということなんだろうと思っています。
 防衛庁の『省』移行について依然議論が続いているようですが、長官としてどのようにお考えか、お聞かせください。
 こういうような問題は議員立法ではなく政府が出すべきだという議論があるということも承知はしております。前回の行革の時にこの議論は1回整理はついたことになっていますので、議員立法というものでお願いをし我々はその成立を期待しているところです。「省にしなければ士気はあがらない」という議論はまずいと思っています。それは今、防衛庁のままでも自衛隊の士気は高く規律も厳正なものであって、「そうすると省にしなければ士気は低いのか」と言われたら、そこでこの議論はお仕舞になってしまうわけです。私はそういう議論よりも、国家行政組織法上から見て、例えば厚生労働省年金局というものがあってそこが企画立案して社会保険庁が実際それを現場で実施する、財務省主税局というものがあってその実務を国税庁がやるというのが外局なんだろうと思います。そうしたら内閣府が企画立案して防衛庁が実施するのかといえば、もちろんそれは違いますが「庁」ではそのような誤解を招きかねません。もう一つはこれは語感の問題ですが、「DEFENSE AGENCY」と言った時に「AGENCY」という言葉を辞書で引けば「代理店、特定の任務を担当する政府の機関・部局」と出てくるわけです。これは英語圏の人からするとですね国の防衛全般を担当する行政組織とは見えないわけですよね。これはやはりおかしいだろうと。国の根幹たる安全保障を担う組織が「AGENCY」というのはどうみても変ですね。
 少子高齢化社会の中で将来、自衛隊を希望する人材が相対的に減少すると考えられますが、これは、長期的計画が必要であり、その面の研究はどうなっているのでしょうか。
 昨年は9倍の応募があって非常に狭き門でありますが、実際問題、募集対象人口というものは減少するということは確かであって、中長期的には厳しい環境になるだろうと思っています。定年延長ですとか、処遇改善ですとか女性の自衛官の活躍する分野を増やしていくですとか、曹候補士制度を導入するなど色々なことをやってきたわけです。また、募集情報についてインターネットを使うだとか、携帯電話を使うだとかそういうことを進めてきているところです。今後もそういう努力はしていきたいです。今は本当に狭き門、自衛隊員になることは大変なことですが、それがいつまでも続くとは思っていませんから、そういう形でさらに取り組んでいきたいと思っております。
 防衛問題に精通しておられる長官から見て、今後隊員の処遇や隊員に要望されるものはどういうものでしょうか。
 「身の危険を顧みず」という宣誓をして自衛隊員になっているわけで、それにふさわしい処遇がなされているかということなんだと思います。それは物心両面ということですが、私は国会答弁でも「人はパンのみにて生くるにあらず」ということを言うのですが、物的な処遇も必要でしょう。しかし、名誉というもの、これは内局の人たちも一緒で自衛隊員の全てに共通するものですが、本当にいざという時に身命を賭してやる人たちに対する社会全体としての敬意、尊敬、感謝みたいなものがない国は非常に脆い国なんだろうと思っています。過去の例を考えてみても、例えば1910年代の中頃から後半にかけてのことですが、第1次世界大戦が終わって軍縮ムードが高まった時に制服を着て歩かないという時代があったそうなんです。そういう軍というものに関心が持たれない、軍人というものに尊敬の念を持たれないという時代があった。そういう時代があって、そして大恐慌というものが1929年に起こって日本も農村が疲弊をしていった時に、5・15事件、2・26事件というものが起こっている。私はそれと一緒だなんていう議論を行うつもりは全くないのですが、ある意味、歴史というのは一つの法則みたいなものがありますね。そうするとやはり経済は経済できちんとやらなくてはいけないけれど、経済が疲弊してくる、そこへ軍人たちが「俺たちがやらないでどうするんだ」という形になって5・15事件等が起こるというのはですね、決していいことではないと思っています。だから経済政策をしっかりやるというのは一方において政府の重要な仕事ではありますが、同時に軍事的なものを、わが国においては実力組織ですが、無視するような形でやっていくと、何かあった時に「どうせ政治なんか駄目なんだ」となってしまう。「昭和維新の歌」で「政治は全く昭和庶民を顧みない。経済界も全く庶民の苦しみを分かっていない」と歌われている文句というものはですね常に我々が気をつけなくてはならないんだということだと思っています。私は常に自分たちに対する警戒としてそういうことを考える必要があるのだろう。実力組織というものに対してそれを遠ざけるという事ではなくて、それがシビリアンコントロールのあり方なんだろうと思っています。だからシビリアンコントロールというものがしっかり行われている、実力組織と政治というものが信頼関係を持つ、国民生活、政治、あるいは実力組織、経済、そういうものの相互信頼関係というものは常に持っておくべきものでしょうね。

鳥取県庁に危機管理で自衛官
 大臣の地元鳥取県と自衛隊の連携は非常に「いい関係」だと聞きましたが。
 理想的といえば理想的といえますね。私と坂田善穂地連部長(現八師団幕僚長)で一座を組んで、共同講演も7,8回やったと思いますよ。最初に地連部長が1時間話して、その後私が1時間話して、質疑応答を受けてというものです。そういうパターンで二人で7ヶ所くらい回ったかな。私だけが話していても「何が実際に、防衛庁・自衛隊に勤務したことも無い者が」、という話になりますけど、実際に制服自衛官が講演してその後、私が話すと「ああ、なるほどね」となるわけです。この間、鳥取で会場に入りきれない人が来てやった講演は、知事と地連部長とサリン事件の被害者とNYのテロの被害者といった人たちとでパネルディスカッションするというものでした。なかなか面白かったそうですよ。
 よく災害などが発生するとどこに連絡すればいいのか分からないというのがありますが、鳥取県の場合は県の方で危機管理に関して自衛隊ともよくやってるそうですね。
 「鳥取県西部大地震」というのが一昨年ありまして、そこで自衛隊が非常に迅速・的確にやってくれたと聞かされています。坂田地連部長は実はその時、病気をした直後で入院していたのですが、地震発生直後にとにかく担架に乗って知事室に行き、災害対策本部のソファーに横になりながら迅速・的確に動いたそうです。それに知事は感銘を受けて、県庁に制服自衛官を入れよう、そして消防からも警察からも来てもらって、危機管理官の下に制服3人を置こうということで、今は3人で一座を組んで鳥取県39市町村を巡回してそれぞれの防災態勢を整えている。自衛官と市町村長たちが常に意思疎通ができることが必要で、知事がよく言うのは「災害が起こった時に名刺交換してるようでどうするんだ」という話です。鳥取県も知事なり地連部長なりの行動力があって、ある意味自衛隊と行政との関係は1番いい形ではないでしょうか。
 自衛隊始まって以来の緊張感のあるこの時の防衛庁長官は一時の息も抜けないと思いますが大臣の言われる一分一秒のご活躍を期待しています。本日はどうもありがとございました。
ありがとうございました。


9面へ
(ヘルプ)

Copyright (C) 2001-2014 Boueihome Shinbun Inc