防衛ホーム新聞社・自衛隊ニュース
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自衛隊ニュース   1057号 (2021年8月15日発行)
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読史随感
神田淳
<第83回>

北条義時の苦悩

 2022年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の主役となる北条義時は、どのような人物だったのだろうか。
 北条義時(1163-1224)は鎌倉幕府の第2代執権。平安時代末期、伊豆の小豪族北条時政の次男として生まれ、父時政とともに源頼朝による平家追討の挙兵に参加。頼朝が開いた武家政権(鎌倉幕府)を支える有力な御家人となった。頼朝の死後は、合議制で運営される幕府の13人の御家人の一人となったが、御家人間の権力闘争を勝ち抜き、執権時政の失脚後、第2代執権となった。1221年後鳥羽上皇が倒幕を決意し、義時追討の勅令を発したが、幕府のもとに参集した関東の御家人たちは、義時の長男泰時を総大将として大挙して京に攻め上り、朝廷軍に圧勝した(承久の乱)。ここに幕府の朝廷に対する政治的優位が確定し、武家政権が全国政権として確立した。
 北条義時は源頼朝が始めた武家政権を完成させた政治指導者であるが、後世史家による義時の評価は概して芳しくない。おしなべて北条氏歴代は、陰険と言われ、悪辣とそしられる人々が少なくないが、その代表として必ず義時が挙げられる。義時への非難はまず承久の乱で皇室に敵対し、上皇を配流した事実に向けられ、ついで父時政の追放や、競合する有力御家人たちを失脚させたという陰謀に向けられる。そしてそれらの事件がすべて義時に有利な結果に終わったところから、その悪辣さが強調される。特に明治以降の国定教科書では、義時は皇室に敵対した極悪の逆臣として描かれる。
 一方、勝海舟は『氷川清話』で義時を高く評価している。「北条義時は、国家のためには、不忠の名をあまんじて受けた。すなわち自分の身を犠牲にして、国家のために尽くしたのだ。その苦心は、とても軽々たる小丈夫にはわからない。おれも幕府瓦解のときは、せめて義時に笑われないようにと、幾度も心を引き締めたことがあった」と。
 史家による評価をみると、義時の悪評は、頼山陽に代表されるように、主として君臣間の大義名分論が定着した近世の史家によるものであることがわかる。中世の史家には義時を逆臣、不忠と批判するものは見られない。義時の政治的立場を是認し、武家政権によって民政の安定がもたらされたことを評価している。
 『梅松論』に、義時追討の勅令が発せられた上は降伏を勧める泰時に対する義時の言葉が伝えられている。「その議は神妙。ただ、それは君主の御政道が正しい時の事。近年天下の行いを見るに、君主の御政治が昔と変わり、実を失っている。土地所有に関する勅裁が大いに乱れ、国土が穏やかでなくなり、万民が愁えている。この禍が及ばない所は、関東(幕府)のはからいである。天下静謐のため、天道にまかせて合戦すべきである」と。この義時の言葉で、鎌倉の武家政権が何を目的として成立したかがわかる。
 武家政権を確立した政治家として、勝海舟と同様、私は義時を高く評価する。『増鏡』に義時は「心も猛く、たましいまされるものにて」と記されている。義時は頼朝のようなすぐれた政治的判断力をもち、行動は良識的である。きわめて怜悧で、果断な決断力と実行力をもつが、温情もある。
 私は鎌倉時代を日本史の中で、社会が新しく発展した比較的良い時代だったと思っている。鎌倉の武家政権は社会の進歩に沿った政権であり、幕府代々の北条氏による政治は概ね善政であった。北条義時には歴史的業績にふさわしい評価を下したい。
(令和3年8月15日)

 神田 淳(かんだすなお)
 元高知工科大学客員教授。著作に『すばらしい昔の日本人』(文芸社)、『持続可能文明の創造』(エネルギーフォーラム社)、『美しい日本の倫理』などがある。


サンシャイン・レディースパラダイムシフト
おおくぼ系 著
 東邦通信社編集部次長の新堂園譲司(しんどうぞのじょうじ)は取材のため九州最南端さつま県経由で旭日島に向かう。一方航空国防隊鹿屋基地所属の中尉、松葉瀬薫(まつばせかおる)は連休を利用して旭日島で闘牛を楽しむ。というより生来の感の強さで勝負に挑むのだ。見知らぬ二人が闘牛場で接点を持ち、ジャーナリストと国防隊員という二つの視点からその後の物語は展開していく。
 新堂園の所属する編集部の企画会議では「戦わない穏やかな時代になった男たちのレクイエム」「化石となった男どもの掘り起し」等、前時代的とも捉えかねないテーマの掘り起し連載を決定する。タイトルは「尚武の心」。そしてその取材を新堂園が自ら買ってでたのだ。
 その頃国防隊では、松葉瀬薫(以後カオル)をリーダーとした「サンシャイン・レディース・プロジェクト」が進行中であった。航空国防隊が中心となり民間との協働により最新技術を駆使した国産レシプロエンジン戦闘機6機を復元開発し、女性操縦士による戦闘技術飛行中隊を編成するというもの。そう、「零戦」「隼」といったあの懐かしい大戦機だ。
 プロジェクトを任されたカオルはメンバー選びに奔走、その結果各基地から選りすがれた女性隊員たちが集結する。そして建国記念の日に行われる予定の編隊飛行技術の披露を目標に訓練は進む。
 一方新堂園の周辺では「尚武の心」が配信された後、様々な変化が起こる。記事を読んだ藤嶋美紀緒という夫人から新堂園は出版依頼を受ける。藤嶋崇志という国を憂いて切腹自殺した作家の実名小説である。その小説『憂国の一〇四』は新堂園の宣伝努力もあり評判を呼ぶ。その影響から映画化の話が持ち上がり、かつ新たな出版依頼も舞い込む。国の独立をテーマとした『西南の嵐』。依頼者は「イスタリア」と名乗る。それは奇しくもカオルのプロジェクトタックネームと同じであった…。
 本誌の特長は、文中登場する『憂国の一〇四』『西南の嵐』『尚武の心』の内容を紹介しつつ物語が進展していくという、言わば小説の中で小説が読み解かれていくという展開の妙だ。それはカオルの血縁、幼馴染の存在、同期の仲間、「税もなく失業もなく軍隊もない国」を標榜する「桃源郷事件」の真相、『美の化身』に見る純粋の狂気の本質など様々な事象、心情を本編で見事に浮かび上がらせている。
 物語終盤では、観閲式での大空から展開するカオルの大デモンストレーション(演出)に引き込まれ、ハワイ真珠湾に向かうカオルの行方に息を飲み、そしてラストは意外な結末へ…。新しい時代に向けたそれぞれの人間たちの心情が描かれ最終章に向かう。
 物語全編で問いかけているのは男女平等社会という今日的なテーマだ。本誌はその重厚なテーマを基に、カオルという独自のキャラで痛快かつミステリアスなエンターテイメント性を持った作品として仕上げられている。カオルの一挙手一投足、歯切れのいい言動に男性読者はたじろぎ、女性読者の一部からは応援歌が聞えてきそうだ。

侮ってはならない中国
いま日本の海で何が起きているのか
坂元茂樹 著
 本書は海洋強国をめざす中国の海洋進出に対して日本としていかに対処すべきかを国際法の観点から論じたものである。国際法学者で同志社大学教授の著者は、国際法の議論をわかりやすく解説し、日本のこれからの世代に中国がとるしたたかな「戦略的思考」を知らしめる警告書となっている。また、研究者としてだけではなく、いわゆるセカンドトラックの実務者として中国側と15年以上折衝を行い、さらに、外務省、国交省、防衛省等の政府機関に多くの法的助言を与えてきた豊富な経験を活かし、これまでの著書を基にして昨今の米中対立の最新情報まで含め書き下ろしている。第一部「南シナ海」では、中国が歴史的権利として主張する九段線とフィリピンが中国を訴えた南シナ仲裁裁判に関し詳細で分かりやすい説明がなされており、また、同海域における米国の航行の自由作戦も触れられている。第2部「東シナ海」では、当該海域、就中、尖閣諸島周辺及び沖ノ鳥島周辺での中国公船の活動を中心に同国の狙い・目的及び具体的行動が詳細に述べられており、中国も大国であるためには軍事力や海洋資源開発能力を向上させる必要がありそのための戦略に触れ、それを決して侮ってはならないとする。そして最後に、「侮ってはならない中国」というのは、中国艦船の大型化・近代化といったハード面だけではなく、国際法の知識というソフト面でも中国を侮ってはいけないことも含んでいると締めくくっている。(信山社出版・刊 本体880円+税)

中国、日本侵攻のリアル
岩田清文 著
 第34代陸上幕僚長・岩田清文氏が警笛を鳴らす日本の防衛の弱点。著者は、「近年の戦争のかたちの変化、進化を真剣に受け止め、従来の防衛の概念に固執せず、柔軟に、他国に先がけて国の守りの体制を見直すことが死活的に重要」「戦後長きにわたって日本を呪縛し、解きほぐすことさえできなかった特有の国内事情も、わが国の防衛体制の変革を阻んできた」とし、それら問題点についての解決策を、緻密なシミュレーションを通してわかりやすく解説している。内容は、中国が台湾へ侵攻し、そして宮古島、与那国島、尖閣諸島を占拠するというものだが、これは巷に溢れる単なる脅威論ではない。明白な軍事侵攻がないまま、先島諸島への不法侵入を許してしまうという可能性。国民生活そのものが戦争の対象であるという事実。新領域「宇宙・サイバー・電磁波空間」とフェイクニュースや政治工作などの非軍事手段を組み合わせたハイブリッド戦の脅威が本書によって理解できるだろう。読了すると、自衛隊元最高幹部の著者が主張する<政治家と国民は、「自衛隊を抑え込む」よりも「自衛隊をいかに自分たちの国を守るために活用するか」を考える時期にきている>という言葉に真剣に耳を傾けるべきだと実感する。
(飛鳥新社・刊 1500円+税)

和をもって貴しとなす
日本文化による安全保障への道
和貴の会 著

(本書の構成)
第1章 今なぜ安全保障なのか
第2章 今なぜ国なのか
第3章 今なぜ戦争なのか
第4章 今なぜ平和、危機、
抑止なのか
第5章 今なぜ情勢判断なのか
第6章 今なぜ日本文化なのか

著者 和貴の会
 伊佐次達ほか
内外出版(株) 定価4,500円
 (但し割引あり)
※お問合せ・お申し込みは下記まで
 和貴の会事務局長 逢坂啓一
 〒190-0033
 東京都立川市一番町4-14-10
 TEL:042-531-1705


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