防衛ホーム新聞社・自衛隊ニュース
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自衛隊ニュース   1018号 (2020年1月1日発行)
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モンブラン登頂記
「刺激的な挑戦」
百里救難隊 救難員 2空曹 横平 充雅
 7月31日。どこまでも続く青空、澄んだ空気、締まった雪を踏んだ時の心地よい足音に耳を傾けながら、ヨーロッパ最高峰のモンブラン(標高4810m)に登頂しました。
 1年前、私は登山用品やスキー用品を扱う店が発刊しているカタログのある1ページに目が留まりました。そこには「モンブラン登頂を目指して頑張る方を募集します」と書かれていました。自立した登山者として成長していく人を応援し、目標はヨーロッパアルプスの最高峰モンブランに登頂するというものでした。
 このプロジェクトは、半年という短い期間ですが集中して日本屈指の山岳プロガイドから学びを受けられること、その先の目標が明確で憧れのヨーロッパアルプスに挑戦ができるということで、迷わず応募しました。書類選考、面接、体力試験、健康診断を経て166名の募集者から最終的に6名に絞られ、そのうちの1人としてプロジェクトに参加できることになりました。
 今年1月に初顔合わせ。選抜されたメンバーは年齢、職業、登山スタイルも多様。ロープを使ったことがない人、積雪期の登山経験がない人もいました。私が最年長、最年少は高校3年生、男性2名女性4名の編成でした。
 国内のトレーニングは2月から6月にかけて行いました。自立した登山者の育成ということで、ガイドされながらの登山と違い、自分たちで作り上げていくのも目的の一つとして課せられました。毎月各地の山で行われたトレーニングでは、ガイドから何を学ぶか、器材は何を準備するのか、宿の調整等をメンバー同士で相談して計画していきました。
 トレーニングの時間は少ないながらも内容は濃く、登山に対する心構えや技術を毎回学び、特に救助技術やリスクマネージメントに関しては救難任務に活かせることが多く大変勉強になりました。時には厳しい言葉も掛けられ心が折れそうになったメンバーもいましたが、みんなでフォローしながらトレーニングを積み重ねていきました。計画された日程で足りないと思った時は、メンバーだけで自主トレ山行を計画してスキルアップしていくことができ、山に対する意識も徐々に変化していきました。
 出国前日には東京都内にある低酸素トレーニング施設において標高4500mと5000m相当の低酸素トレーニングを行いました。また自他ともに認める雨(嵐)男のため、国内唯一の気象神社で全霊を掛けて快晴祈願をして出国しました。
 海外登山は初めてであり期待に胸を膨らませて出国しました。順調な出国と思ったのは束の間、ジュネーブ空港に到着した時に荷物一式が届かないという事態が発生。荷物が届かないため、時差ボケ解消と高所順応するためのトレーニングは、モンブラン山麓の街シャモニーで最低限の器材をレンタルし、他に不足している物品等は購入して臨みました(後に荷物は宿泊場所に届き、万全な状態で本番を迎えることができました)。
 高所順応トレーニングはヴァレ・ブランシュ氷河で行いました。メンバー同士をロープで繋ぎ、幾つものクレバスが大きく口を開いている場所を慎重に歩きました。高地では大気圧が下がり、空気が薄くなり酸素が欠乏することによって、頭痛や、疲労、吐き気などが発症し、重症になると昏睡になることもあります。そうならないためにも高所登山する前にトレーニングをして、低酸素状態に順応するということはとても重要なことなのです。
 さて、モンブラン挑戦は9日間の合宿生活(7月27日~8月4日)となりした。半年前まで全く見ず知らずの者同士が共同生活するので、いろいろ弊害が出てくるかと思いましたが、いざ過ごしてみると皆が協力的で、個々が自立していて、とても居心地のいい空間でした。半年間のトレーニングを積む中で、それぞれがメンバーを理解しようと努め、よりよい信頼関係を築いていこうとした努力が実を結んだと感じました。また登山と聞くと登る行為やその技術を重点に考えがちですが、その中での自然と向き合う姿勢であったり、一緒に上るメンバーとの信頼関係、理解力など様々な力が重要であり、これらを試されていたのだと悟ることができました。そして、これらの集大成により、私たちがモンブランという最終目標地点にたどり着けたのだと改めて痛感しました。
 7月30日、バスと登山電車を乗り継ぎ登山口まで移動。息も弾み、心地よい汗をかき、待ち望んでいた憧れの地を歩いている感覚は幸福感でいっぱいでした。
 途中のクーロワール(雪や氷が詰まった急斜面の深い岩溝)は、連続して落石が発生する危険地帯。足早に通過し、以降の岩場は細心の注意を払って登っていきました。
 標高3700mほど登ったところから白い世界が広がっていました。アイゼンを装着し、メンバー同士を結んでいるロープの間隔を長くして歩を進めていきました。初日の目的地は、一生に一度は行きたい山小屋と言われているグーテ小屋。某SF映画に出てきそうな外観で、施設内も綺麗かつ快適で感動しました。またグーテ小屋は断崖絶壁に建っているので見渡す景色は絶景で、いつまでも見ていたいと思うほど、その景色に引き込まれました。
 7月31日、挑戦2日目。雲一つない澄み切った青空のもとサミットプッシュスタート(山頂を目指すこと。自分を頂まで押し上げていくこと。)。眼下に広がる雲海、朝焼けに染まるモンブラン針峰を横目に白い頂を目指しました。頂上直下のナイフリッジを通過する時が一番気を抜けない所でしたが、ゾクゾクする高揚感は今でも忘れられません。
 慎重に足を前に運び、風で体がもっていかれそうになりましたが、ピッケルを雪面に刺しバランスを取りながら一歩一歩山頂を見上げゆっくり進みました。
 登頂率2割といわれるモンブラン。いろいろな困難を乗り越え、運も味方につき、現地時間11時15分、ヨーロッパ最高峰モンブラン(4810m)に登頂することができました。そしてこの日は私の42歳の誕生日。頂上に至るまでの美しい雲海と朝焼けの淡い色合い、ドームのきれいなフォルム、白と相対して空の濃い藍色、風の音や叩きつける氷の破片の痛み、すべてが忘れられない記念日になりました。
 周りに遮るものがない貸し切りの山頂で記念写真をたくさん撮り、雄大な山容を目に焼き付け下山開始。山頂直下は慎重に下り、なだらかな斜面では気分よく歩いてきました。下山後、山麓の街で参加者全員で登頂成功の祝杯を挙げ、深夜まで会話が尽きることはありませんでした。
 このプロジェクトがスタートして半年、ここに来るまで色々な困難がありました。国内トレーニング参加が必須の中、その準備はメンバーの体調不良、突発的な仕事が入るアクシデントやトラブル等、決して順風満帆に進んで来たわけではありませんでした。都度メンバーで話し合い、何がベストな選択なのか相談し、決断をギリギリまで悩んだ時もあり、紆余曲折を経て今日に至っています。決して楽な道のりでは無かったのですが、こうした長い道のりがあったからこそモンブラン登頂のその時は感極まるものがありました。
 今日まで、多くの方々のご支援がありこの刺激的なプロジェクトに参加することができました。この場をお借りして御礼を申し上げます。本当にありがとうございました。今後、今回体験したことや学んだ技術などを発信することで、感謝と御恩を返していきたいと思います。

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