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自衛隊ニュース   1004号 (2019年6月1日発行)
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読史随感
神田淳
<第30回>

日本の仕事の思想

 今はもう昔のこととなるが、日本の経済力が世界を席巻していた昭和の頃、欧米人から日本人は働きすぎだと非難された。外国からの批判に極端に弱い日本人は、その気になって、自国のすぐれた勤労文化に自信を失い、経済の沈滞を招いている。欧米人のこうした批判に対しては、日本の伝統文化の仕事の思想に自信をもち、しっかりと反論しておけばよい。
 欧米には労働苦役思想が存在している。聖書によると、神の命に背いたアダムは、「一生苦しんで土より食物を得よ」と楽園から追放された。土から食物を得る労働は懲罰であった。欧米も宗教の近代化とともに、次第に労働観も進歩したが、なお労働苦役思想は根強い。スペインに「カスティガード」という言葉がある。これは「神に罰せられた人」という意味で、くそ真面目に働いている人を嘲笑した言葉である。
 これに対して日本は働くことに非常に大きな価値を見出す文化を培ってきた。日本の伝統文化である神道には労働を苦役とする思想はない。神道では神々も働き、労働は神事である(労働神事説)。労働することは神に仕え、神と共に働くことである。ゆえに働くことは無条件に善である。
 西洋のキリスト教と同様、日本も宗教(仏教)が労働観を深化させた。江戸時代の初期、鈴木正三(1579-1655)は「職分仏行説」を説いた。これは、人は日々の仕事に専念することがそのまま仏道修行になるという教えである。士農工商のいかなる人も職業に励めばそれが仏道修行となり、成仏できる、すなわち救済される。
 現代日本を代表する経営者稲盛和夫の仕事の思想は、鈴木正三の延長にある。曰く、「ひたむきに自分の仕事にうちこみ、たゆまず努力をかさねていくこと、ーーーそれが修業となって人間を成長させてくれるのです。ーーー働くこと自体に試練を克服し、人生を好転させるすばらしい力があるのですーーー」。稲盛さんは、人は働くことによって救済されると説いている。
 日本人の仕事の思想は日本の歴史の中で深められ、仕事が喜びであり、仕事の中に人間の尊厳を見出す高みに到達している。いい加減な仕事や、労働を切り売りするといった発想を日本人は好まない。満足のいく仕事、良い仕事は自己の尊厳そのものである。日本人のこうした仕事の思想は、日本に住んだ多くの外国人の目にとまっている。戦後日本を統治したGHQのマッカーサーは、極東政策をめぐる証言で、「日本人の労働力は質的にも量的にも優秀であるばかりか、遊んでいるときよりも働いているときの方が幸福であるという、いわば労働の尊厳を見出している」と述べている。
 人が職を失うとしばしば自尊心も失うことは、世界的に認められている。従って仕事に自己の尊厳を見出すのは日本が特殊というわけではなく、世界共通だと思う。ただ日本では、尊厳といった難しい言葉以前に、国民一般に、良い仕事をしなければ人間として満足しない感覚があり、これが日本のすばらしさである。
 途上国における国際協力プロジェクトにおいても、日本は必ず実行しやり遂げる、と評価されている。こうした日本人の姿勢は日本の仕事の思想が生んだものである。
 日本に対するこうした評価は、平成の時代に少し落ちたような気もするが、先人が築きあげてきた仕事に対する姿勢はまだまだ健在だと思う。
(2019年6月1日)

神田 淳(かんだすなお)
 高知工科大学客員教授
 著作に『すばらしい昔の日本人』(文芸社)、『持続可能文明の創造』(エネルギーフォーラム社)、『美しい日本の倫理』など。


カナダで第3回「国連工兵部隊マニュアル」 改定専門家会合に
議長国として参加

<陸自施設学校>
 施設学校(学校長・腰塚浩貴陸将補=勝田)は、4月28日から5月5日の間、カナダ共和国において開催された「第3回国連工兵部隊マニュアル」改訂専門家会合に参加し、議長として教育部主任教官・白石1陸佐、議長補佐としてPKO幹部・赤塚1陸尉を派遣した。
 同マニュアルは、PKO工兵部隊の基準等を示すものであり、平成27年に日本が議長国となり策定し、平成30年、その改訂のための会合の議長国として、国連から改めて日本が指名を受けた。WGは、計4回の会合を経て改訂作業を完了する予定であり、これまでに第1回会合(日本)、第2回会合(アイルランド)第3回会合(カナダ)が実施された。
 第3回WGには、日本、カナダ、中国、米国、ブラジル、パキスタン、スイス、国連平和活動局(Department of Peace Operation)及び国連地雷対策サービス部(UN Mine Action Service)の2機関7カ国から佐官級の施設(工兵)及び爆発物の専門家が参加した。会合においては、国連工兵部隊に求められる爆発物の捜索・探知に関するガイドラインについて合意し、同マニュアルの改訂を概成するとともに、同マニュアルの改訂サイクル及び普及要領についての議論を深めた。6月には、最後の第4回会合が中国で開催され、その後、改訂案を国連本部に提出する予定である。

国連PKO支援部隊早期展開プロジェクト
教官団が湯浅陸幕長に出国報告
 6月3日から8月23日の間(派遣期間は5月25日から8月28日)、国連PKO支援部隊早期展開プロジェクト(アフリカ)=RDEC=の一環として、陸上自衛官23名(第5施設団第9施設群=小郡)がケニア共和国において、ウガンダ国軍の工兵要員に対する重機(中型ドーザー等5機種)の操作訓練を実施する。これは国連PKOへ参加することが決まっている各国の工兵要因に対し、早期に展開を可能にすることを目的とする活動だ。5月17日、派遣教官団を代表して宮本健団長以下5名が湯浅悟郎陸上幕僚長に対して出国報告を実施した。
 湯浅陸幕長は陸幕副長時代にジブチの海賊対処行動を視察した際、現地工兵要員に対する施設機材の教育について聞いたエピソードを披露。被教育者である現地要員の目線で教育をすることで信頼を得ることができ、課程修了式に泣いて感謝を伝えられたという。この姿勢は、自衛隊が海外派遣で高い評価を得ている理由のひとつだ。湯浅陸幕長は「頼むぞ」と言って教官団を送り出した。
 平成27年から始まった当活動は、アフリカでの試行訓練を含めて今回で8回目。アジアにおいても同活動をスタートさせ、昨年はベトナムで試行訓練を実施した。今後2カ年ごとにインドネシア、タイ、カンボジアの順で実施していく予定とのことだ。

市ヶ谷地区の託児施設を視察
<鈴木政務官>
 5月9日、鈴木貴子防衛大臣政務官が市ヶ谷地区託児施設「キッズパオ防衛省市ヶ谷保育園」を視察した。当施設は、全国の駐屯地や基地に所在する8つの庁内託児所施設の7番目として平成29年4月に開所した。認可保育所のため、定員30名のうち防衛省職員ではない一般の子どもも預かっており、地域の待機児童対策にも貢献している。
 まず園庭を見学してから厚生棟2階の室内へ。園児たちと目線を合わせるようにしゃがみ笑顔で話しかけた鈴木政務官。おままごとに加わるなどふれ合いの時間を過ごした。約20分かけて2歳児以上、0歳児、1歳児の部屋、トイレ等を見て周り状況を確認していった。また、重さや形状を子どもが持ちやすいように工夫した特注の食器を手にすると、その使いやすさに感心していた。
 ひと通り視察した後、廣瀬保育士に「何かあったらいつでも言って下さいね」と優しく声をかけた鈴木政務官。「使用済みのおむつは持ち帰るのですか」と母親らしい視点の質問も(当園は園内で処分)。また園庭に、すべり台を設置するなどの改善等の提案を行った。
 女性自衛隊員の職場復帰をバックアップすることが大きな役割である庁内保育施設。彼女達の活躍のためにも施設の充実が今後も図られていくことを期待したい。

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