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   2007年4月15日号
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《論陣》
「疑わしきは使用せず」
タミフル事故の核心=対応
 薬には副作用がつきものである。使用に際して患者・家族はしっかりと副作用についての知識を持つ必要がある。だが、なかなか庶民はそこまでの認識がない。大病を患ったものであればまだしも、健康人として生きてきたものには、この点の理解が少ないか乏しい。
 したがって、薬を投与する側、医師や薬剤師は十分に副作用を知らしめる責任と義務があるのだが、現実にはいろいろと問題をかかえたままである。説明責任を果たしていない医師がたくさんいる。ここにも医療現場の課題が残されている。
 さて、最近の副作用による重大事件というと、抗インフルエンザウイルス剤「タミフル」である。2005年11月に子供がこれを服用し、異常行動による死亡が発覚した。一人は車道に飛び出して車にはねられるという悲劇を引き起こした。もう一人はマンション9階からの転落死である。
 他にも同じような事例がなかったのかどうか。「隠蔽」が日本の医学界の体質という事情を考慮に入れると、疑問なしとしない。患者家族の勇気ある行動が問題発覚につながるという、これまた日本的風土でもあるからだ。
 問題は政府の対応である。「タミフル」使用を承認した厚生労働省の適切な措置が求められた格好の事案でもあったのだが、決して立派な対応と評価できるものではなかった。人間の命にかかわる重大な副作用が想定されているわけだから、ここは「疑わしきは使用せず」を、一時的でも貫くべきなのである。さらに、これを服用させた医師が家族と一緒になって真実を公表すべきであった。そうしていれば、政府の対応もまた速度を速めたかもしれない。日本医師会もまた、責任の一端を負っていようか。
 どうしてすばやい対応が取れなかったのか。恐らく輸入販売の製薬大手企業への官僚天下りが、役所の動きを鈍らせたものだろう。官民癒着の体質も問われる必要があろう。根っこは深い。マスコミの取材に厚生労働大臣や官僚らは「安全性に重大な懸念があるとは考えていない」(2007年2月28日)と突っぱねたのはいただけない。
 スイスの会社で作られている「タミフル」は、系列の日本の大手製薬メーカーの働きかけもあって、厚生労働省は2000年に使用を承認した。翌年保険の適用も認めた。驚くべきは、この重大な副作用薬の全世界使用量の75%が日本という。子供の使用量はアメリカに比べて13倍という、これまた仰天してしまうデータまである。
 2005年には一部の大病院が買占めまでしている。厚生労働省は2004年の時点で「異常行動や意識障害がある」との指摘までしている。この辺がどうも臭い。なぜ、大々的に副作用の警鐘を医療現場に鳴らさなかったのか。天下り先輩に遠慮したものなのか。
 刑法では「疑わしきは罰せず」だが、子供の命にかかわる副作用が判明した以上は即刻、使用禁止を打ち出すべきであったろう。厚生労働省は3月22日になって、ようやく10代の使用制限を緊急発表したが、あまりにも遅い対応ではあった。
 医師・官僚・製薬メーカー役員らに人間性のある判断と行動を強く求めたい。

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