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   2006年8月15日号
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《論陣》
どこに消えたか日本料理
=料亭でも見かけぬ一品を作ってみては=
 歴史ある“日本料理"が名だたる大料亭からも姿を消している。寂しい限りである。暑気払いも含めてわが国古来の季節料理を探してみた。国際、政治、社会問題とわりに堅苦しい「論陣」にも「夏」ひと息つけるような話題もいいのではないかと思う。
 調べてみて興味ある文献を見つけた。明治時代の綜合雑誌の一文である。英国の劇作家ベンジョンソン氏が「料理を配膳するとき、兵学を見事に応用したパーティを見たことがある。兵学はあらゆる面で対敵作戦に使われるが、パーティにも利用されるとは驚きである」と記している。その内容は大皿に魚や鳥肉、ドライフルーツを使って重城(とりで)を築き、その周囲にスープで濠を作り、骨やゆで卵を切って土塁に見せかけ、砲座はパンで固めて、その上にパイで作った大砲をのせている。まさに「食」をもって、すべての戦闘準備完了を表わしている。兵学の奥義を一席の盛り料理で教えている。皿の並べ方も兵士の部隊に見立てている。すべてが兵法の趣旨にあっていると書いている。兵法をパーティに応用するとは−自衛隊にも、こうしたアイディアを使ったパーティもあっていいのではないかとふと思った。
 そして、日本料理のくだりでは各月にかけて“旬の−品料理"を紹介している。料亭でも見かけることがなくなった料理とは。1月は鶯かぶらの一夜漬とある。新年にちなんで塩を十分にかけて強く押せばひと晩で美味しい漬物になる。縁起ものである。2月は初午(はつうま)にちなんだ稲荷ずし。油揚げを味付けし、この中に蓮根、にんじん、しいたけ、きくらげなどを混ぜた五目すし飯を詰める。米1升に酢1合の割である。3月はおぼろ月の吸いもの。味噌汁に卵をつぶれぬように割り込み、汁椀につぐと若菜やわかめを入れる。4月は卯月にちなんで卵の花汁である。味噌とおからの中にねぎを短く切り、これにあさりの塩むきを入れ、中火で温めて食べる。5月は山吹どうふ。とうふを矩形に切って、卵の黄味をぬって焼いた上、山椒味噌をかけて食べる。味噌は岡崎味噌を味醂(みりん)でやわらかくとき、山椒(さんしょう)の芽をすり込むと美味。6月は雷ぼし。白瓜を長くねじ形に切って、塩をふりかけて3日余り干し、これを塩で水洗いした上3センチずつ切って酢または味醂と醤油をかける。7月は蓮(はす)飯である。蓮の若葉を千切りにして塩もみし、ごはんが煮え終る寸前、釜の中に振り込む。蓮の若葉を使うこと妙。8月はおみなえし田楽である。縁日のとき植木職人が好んで食べるとある。とうふを胡椒(こしょう)と味醂を入れた醤油で付け焼きにし、これに蒸した粟粒をふりかける。9月は菊酒が代表だと述べている。作り方は乾した菊の花、地黄、氷砂糖を焼酎1升に漬け込み、ビンの中(密封)で15日経ってから、中味をとり出して味わう。10月は時雨(しぐれ)味噌が美味。蛤(はまぐり)のむき身を砂を落として水洗い。軽く煎(い)って、水気をとり、味醂、醤油で味付けしたものを、再度、煎り付け、赤味噌を適当に入れて、中火でかき回しながら、こげないように煮詰め、冷めたらどんぶりに入れて貯蔵すれば、10日はもつと伝えている。11月は霜降り(しもふり)である。霜降りとは魚の生身をそのまま熱湯にくぐらせ、わさび醤油で食べる。魚はまぐろ、鮭(さけ)、赤貝など赤身のものに限る。それをさっと熱湯にくぐらせると表面が淡い白色になり、まるで寒い夜に霜が降ったかのようなので“霜降り"と名付けた。最後は年の暮れを表わす“氷柱(つらら)いも"である。山いもを生で細長く切って葛(くず)粉をまぶしてお湯で煮たもので、醤油をかけて食べる。その形が「氷柱」を表現しているから、この名が付いた−となっている。
 正月から年の暮れまでの日本古来の季節の献立が、これほどくわしく書いてある雑誌の名は「太陽」である。1月の「かぶら漬け」から師走の「氷柱」までの料理のうち一品も料亭や地元の小料理店で見たことがない。江戸以来、いや、それ以前から庶民が季節に合わせて食べていた“料理"が、なぜ姿を消してしまったのか不思議である。イタメシ、フランス料理、中華がいいなどといっているいま。一度だけ古来の一品料理を作ってみてはいかがなものか。

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