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   2006年4月15日号
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<論陣>
拉致被害者の救出を願う
=警視庁の国際手配をきっかけに=
 日本本土から日本人が拉致され、北朝鮮に連れ去られた事件。発生から26年の年月が経って、やっと全貌が解明されそうだ。拉致の犯人は、北朝鮮の工作員とその協力者だと言われてきたが、日本の捜査当局は徹底摘発の姿勢をとらなかった。しかし、その沈黙を破って、警視庁公安部が、先月末、遂に拉致事件にからんだ容疑で大阪市内の中華料理店主の自宅や在日朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の下部組織である在日朝鮮大阪府商工会など6ヵ所を家宅捜索。元工作員の辛光洙(シン・グワンス)(76)が、料理店長だった原敕晃さん=当時43歳=を拉致、北朝鮮に不法入国した実行首謀者とみて辛と他1名の逮捕状をとり、国際手配した。警察庁の本格的な乗り出しで数十件といわれている日本人拉致事件は一挙に解明できる可能性が高くなった。
 こんどの国際手配になった辛容疑者は、1980年4月、日本に密入国した。辛は、商工会幹部や中華料理経営者、その他の工作員と会合。「45歳から50歳ぐらいの独身で身寄りのない日本人を誘拐するよう」指示した。そして中華料理店員だった原さんに目を付け、同年6月12日「貿易会社に就職させる」とだまし、泥酔させたうえ、宮崎県内のホテルに誘い出して、近くの海岸から拉致したというもの。このときの実行犯は辛ら4人だった。そのご辛は原さんの住居基本台帳や履歴書を利用してパスポートを取得し、原さん名義で日本国内で対日工作を実行していた。以後、韓国に潜入した辛は85年にスパイ容疑で逮捕され、死刑の判決を受けた。辛は南北首脳会談の合意で、死刑囚のまま北朝鮮に2000年9月に北朝鮮に引き渡された。辛は帰国後、愛国的英雄として処遇されている。
 警視庁が手配の根拠としているのは、辛が韓国で取り調べの中で供述した内容である。辛に死刑を言い渡した韓国公判の調書には、「日本で中華料理店員を拉致し、北朝鮮に送った事件に、直接、わたしが関与した」との、当時の原さん拉致の模様を詳しく供述していること。当初、北朝鮮は日本人拉致はすべて事実無根としてきた。しかし、2002年秋、小泉首相の訪朝で、金正日氏が、拉致事件を公式に認めたことで、北朝鮮の態度は一度、変化を見せはじめた。その存在すら否定していた拉致被害者5人は帰国、そのご、被害者の子供も日本に帰ることができた。
 しかし、横田めぐみさんの遺骨だと言ってニセ物を日本に手渡したり、残りは死亡と一方的に決めつけ、無理矢理決着をはかろうとしているのが現実である。
そうした北朝鮮の一人よがりが、いつまでも続くはずがない。国連で“人権侵害"が問題化され、韓国でも拉致被害者救済の声が上がる一方、偽ドル、麻薬密造密輸、三角偽 貿易、不正送金などが明るみに出はじめた。アメリカは「北朝鮮からの脱北者を難民として受け入れる用意がある」と、逆の意味での北朝鮮への圧力を加えることを声明している。
 日本は「経済制裁をやる」と言いながら、いまだに、ほとんど実行していない。しかし「現行法の範囲内でも、圧力をかけることができるはず」と、いろいろな方法を検討している。警視庁公安部による拉致捜査の本格的開始も“圧力"のひとつである。また、軍事目的に転用できる工業製品の不正輸出阻止。海上保安庁による海上監視の強化。その結果として現れるニセ札や麻薬の密輸の取締り実績の上積み、不正送金を不可能にする郵便物などの検査強化もそのひとつ。特に政府が法律の範囲内で検討している固定資産への課税は注目される。わが国の地方自治体のほとんどは、各都道府県にある朝鮮総連事務所や関連施設は「治外法権的施設」と見て、不動産としての税金を課していなかった。それを、近く“課税対象"として税金をかけようというのである。当然といえば当然のことだが、そうしたことが実行されていなかったのが、いままでの日本であった。そのほか、特定船舶の入港禁止や脱税問題も多い。こうしたことも、じわりとした“圧力"になってくる――関係者は見ている。
 警察庁公安部の動きが、こんご、どれだけ「突っ込める」かが注目される。これをきっかけにして「まだいる拉致被害者全員の救出」が実現すれば“圧力効果100%"である。

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