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   2005年3月1日号
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ゴラン高原第19次隊
伝統10年、「和の精神で黙々と」
 第4次中東戦争後の1974年に設立され現在まで続く「UNDOF(United Nations Disengagement Observer Force・国連兵力引き離し監視隊)」は、シリア南部ゴラン高原で、イスラエル・シリア両国軍の引き離しなどを行う…ということだが、これが実に中東問題を根幹から支える大事な仕事なのである。この活動が、まもなく記念すべき日を迎える。イスラエルとシリアの間で停戦監視を続け、国連として30年、自衛隊として10年の節目となる。19次隊は平均年齢34歳、明るく覇気に満ちた若い集団だった。(2月13日 練馬駐屯地で)
隊長はゴランで父親に
 「統率方針は“和”です。平和、和平、和らぐ、和む、和やか、日本…。和の概念は、人、歴史や伝統などに敬意を抱き、お互いを尊重・理解しつつ活動するために、最も重要と考えます」
 こう語る隊長・佐藤和之3陸佐は、熊本県出身。穏やかで力みのない、清潔で透き通った印象の人だった。夫人は現在、妊娠5ヶ月。ゴランの任務中に第1子が誕生して隊長は父になる。趣味は読書と剣道・居合のニッポン男児だ。
 「第1次隊以来、諸先輩が築いた功績や伝統を、18次隊からマンツーマンで引き継ぎ、陸海空で培った有形・無形の能力をもって“日本隊らしい”仕事をしたいと思っています」。
 まじめで明るい目がキラキラしていた。「今次は新婚者2名、派遣中に子供が誕生する隊員は2名おりますが、うわつかず、しっかりやります」。
第1師団を主力に陸海空の各職種で編成される第19次隊・43名の隊員たち
ベテランは語る
映画の舞台のような荒涼としたゴラン高原の風景
 「まるで映画“ランボー怒りのアフガン”のような風景。1メートルから多いときで10メートルもの積雪を除雪します」。
 今次が2度目のゴランとなるベテラン隊員・奥津1陸曹は、標高の高い現地の様子をこう表現する。到着早々から任務は多忙を極めるが、「外国人どうし、英語でコミュニケーションし、ともに飲むのもいい経験」という。
 「最初の派遣のとき、見送りで下の子はベソをかいていましたが、今回は笑顔で送りだしてくれました。成長したものです」。
 現地での必需品は“家族の写真”。「外国人にみせてコミュニケーションもできますから」。また、外国人から感心されるのが「よくおちる日本製の洗剤」そして「日本人の団結力」だそうだ。
ゴラン到着後は多いときで10メートルもの積雪を除去する
 19次隊の印象を「若くて元気がいい。32普連と1施大の隊員たちが中心となって雰囲気を明るく盛り上げています」。
 元気と集中力のエピソードにもうひとつ。。派遣前の訓練、3ヶ月で3000メートル走の隊平均タイムが12分14秒から11分02秒に縮んだという。
 なかでも元気なのが、最年長47歳の隊付准尉・野内(やない)准陸尉。持続走は43人中で4位。5キロを10分台前半で走る鉄人である。「あのね、駆け足は年齢に関係ありませんから」。明るく元気な性格で隊員のまとめ役をつとめる。
 ひとつの心、パワフルな明るさで19次隊はこれから半年間を駆け抜ける。
43名は自慢の俊足で半年間を駆け抜ける。
オンリーワン
 陸海空、各職種の混成、個人の集合体であるからこそ、それぞれの才能が活きる。これもまたゴランUNDOFの魅力のひとつだ。
 医官・本強矢(もとすねや)1海尉は海からきたスーパードクター。整形外科医でありながら歯科もこなす。海外派遣もインド洋での給油支援、トルコ沖地震での人道支援に続いて、3回目。さらに個人旅行による海外経験も豊富だ。「“艦艇は家族”という海自の喩えをもとに、全員を見守りたい」
 総務厚生幹部で広報を担当するのは航空自衛官。UNDOF発足と同じ年に生まれた平光2空尉は「大きく成長したい」と話す。全国の自衛官には「ぜひ参加を希望してください」とPR。
 「7ヶ月にもわたる長期間、派遣されている他の国との交流、調整、協力なくして仕事にはならないので、これは大変なことです。しかし、逆にいえば、語学もふくめて国際的な任務遂行に必要な能力を成長させるにはもってこいの任務ではないでしょうか」。
 ヘブライ語、アラビア語、英語を学習。派遣前の数ヶ月で英語力は飛躍的に伸びるという。
 現地ではイスラエル軍の関連施設、陣地や残骸などの見学、さらに歩兵大隊の任地を歩くというイベントもある。自衛隊の任務が兵站輸送であっても地雷原はしっかり見ておく。文献で知る以上に、勉強になるはずだ。
 「外国軍のトップダウン式もいい経験になるとおもう。軍人だけでなく文民との関係も多い仕事。友好円滑につとめたい」とは、司令部要員・前島3陸佐。小林1陸尉とともに1年間の現地滞在となる。
記念撮影を記念撮影「お父さんはどこ?」
隊長から、防衛ホーム読者へ
 「任務の重さを深く認識し、『和』を合言葉に、1次隊以来の伝統を継承しつつ溌剌颯爽、かつ黙々淡々と任務を遂行する所存です。ご家族の皆様、心配とご負担がおありかと思いますが、皆様の力強い支えによって隊員一同、安心して、任務に推進できます。8月から半年の訓練、さらに半年の派遣、合計1年も家庭を離れて心配、苦労をかけましたが、ケガや病気をすることなく全員無事に帰国しますのでご安心ください。いってまいります」
佐藤隊長夫妻(奥)と、ベテラン・奥津1曹の家族(前)
UNDOFはこうして始まった
「国連の平和維持活動として最も成功」
 第4次中東戦争後の1974年に、イスラエルとシリアの両軍が対峙しないよう、国境ラインに兵力引き離し地帯を設け、国連軍が停戦監視することになった。イスラエル側にジウアニ宿営地、シリア側にファウアール宿営地がある。
 自衛隊の参加は、92年に国際協力法が成立して96年にはじまった。以来、約6ヶ月交代で部隊を派遣し、今回は第19次である。後方支援業務の輸送部隊として、UNDOFの活動に必要な日常生活物資を輸送し、道路などの補修、雪かきなどを行う。自衛隊の技術力と団結力は高い評価を獲得しており、日本隊はUNDOFにとって不可欠な存在となった。
 UNDOF司令官のもと、司令部、2個歩兵大隊(オーストリア、スロヴァキア、ポーランド)と後方支援大隊(日本、カナダ)、合計約1000人で構成されている。ペルー、イラン、フィンランドも過去に参加実績をもつ。
ゴランってどんな場所
 中東はどこまでも続く灼熱の砂漠…というイメージとはだいぶ違う。ゴランの冬は氷点下、標高2814メートルのヘルモン山とガラリア湖に挟まれた白銀の世界だ。
 古代文明の時代から人々が暮らす「聖書の舞台」で、アジア、アフリカ、ヨーロッパ大陸の接合地点。4000年の歴史を誇るパルミラの遺構はじめ、文化遺産が多く、潜在的な勘考資源に恵まれている。
 停戦監視地域により分断された村落には神秘的なイスラム教ドゥルーズ派の人々が暮らす。彼らの結婚や進学のときには、国連の要請で輸送を支援することもある。往来できない人々が大声でコミュニケーションする「叫びの谷」には、安否を気遣う家族の声がこだまする。

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