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   2004年3月1日号
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「大切な人を自殺で失わないために」
自殺予防十箇条
カウンセリング体制を充実
 防衛庁・自衛隊においても、これまでカウンセリング体制の充実など職場環境の整備を行ってきております。隊員の家族の方々にも是非知っておいていただきたいことですが、例えば、部隊にはカウンセリング教育を受けたベテラン隊員でカウンセラーに指定された者などが各種の相談を受ける「部内カウンセラー」制度があり、また、全部の部隊ではありませんが、駐屯地等にカウンセラーを招聘して相談を受ける「部外カウンセラー」制度があります。更に、昨年7月からは、防衛庁が部外の業者に委託して電話によるカウンセリングも始めており、それぞれ隊員の悩み事の解決を図っています。これらは何れも家族の方からの相談も可能ですので、「うつ病」の疑いがある場合の相談はもちろんのこと、それ以外の悩み事でも何でも結構ですので、部隊の上司や人事係に問い合わせるなどして、気軽に相談していただきたいと思います。「うつ病」は放置しておくと、自殺という取り返しのつかない結果を招いてしまうことがあります。大切な家族、同僚、友人たちを守るために、多くの方々に「うつ病」について知っていただきたいと思います。
 そこで、今回は防衛医科大学校の高橋祥友(たかはし・よしとも)教授(1等陸佐)に「大切な人を自殺で失わないために」と題して寄稿をお願いしました。高橋教授は、精神医学界の第一人者で、「自殺防止対策」、「メンタルヘルス」を主な研究テーマにしておられます。また、防衛庁が平成12年に設置した「自衛隊員のメンタルヘルスに関する検討会」の座長(当時:東京都精神医学総合研究所精神病理研究部門・副参事研究員)も務められました。隊員の家族の方々に是非読んでいただきたいと思います。(人事教育局人事第1課)
 わが国では1998年以来、年間自殺者3万人台という緊急事態が続いている。これは交通事故死者数の3倍以上にのぼる。なお、自殺の背景には9割近くに心の問題が存在している。ところが、適切な治療を受けていた人となるとほんの一握りにすぎない。悩みを抱えている人が発している救いを求める叫びを受け止めて、きちんとした対応をすることが自殺予防につながる。そこで、自殺予防の十箇条をまとめてみた。
 (1)うつ病の症状に気をつけよう:気分が沈む、涙もろくなる、仕事の能率が落ちる、注意が集中できない、決断力が鈍るといった、気分や感情、思考や意欲の面に現われるうつ病の症状に注意してほしい。
 (2)原因不明の身体の不調が長引く:うつ病では、さまざまな身体症状も生じる。しかし、それがうつ病の一症状であるとすぐには気づかずに、精神科以外のいくつもの科を受診することになる。実際に重症の身体の病気が潜んでいることもあるので、検査はぜひ受けてほしい。しかし、検査を繰り返しても異常が発見できないのに、不調が長引く時は、うつ病の可能性を考える必要がある。
 (3)飲酒量が増す:とくに中高年の人で、徐々に酒量が増していく場合には、背後にうつ病が存在する可能性がある。飲酒をすると、一時的に気分が晴れることを経験的に知っているために、抑うつ的になった人が、酒に手を伸ばしてしまうことがある。飲酒によって不眠が改善すると信じこんでいる人もいる。しかし、アルコールは結局はうつ病を悪化させる。また、酩酊状態で自分の行動をコントロールする力を失ったうえで、自殺行動に及ぶ人も多い。
 (4)自己の安全や健康が保てない:自殺はある日突然、何の前触れもなく起きるのではなく、それに先立って、安全や健康が保てなくなるといった行動の変化をしばしば認める。まじめな人が、何の連絡もなく突然失踪してしまう。酔って喧嘩をしたり、事故に巻き込まれたりする。多額の借金をする。性的な問題を起こすといった行動の変化が、自殺が生じる前に認められることがある。これは無意識的な自己破壊傾向が既に始まっていると考えるべきである。
 (5)仕事の負担が急に増える、大きな失敗をする、職を失う:これはマスメディアもよく報道している問題である。わが国の年間法定労働時間は1,800時間だが、それが3,000時間を超えると、過労死・過労自殺の率が3倍以上になるという報告もある。仕事一筋でこれまでの人生を送ってきた人が突然、仕事上の大きな失敗をしたり、解雇といった問題に直面し、自己の存在意義を失い、急激に自殺の危険が高まることがある。
 (6)職場や家庭からのサポートが得られない:未婚の人、離婚した人、配偶者と死別した人は、結婚していて家族のいる人に比べて、自殺率は3倍も高い。職場でも家庭にも居場所がなく、問題を抱えているのに、サポートが得られない状況でしばしば自殺が生じている。
 (7)本人にとって価値あるものを失う:喪失体験とはそれぞれの人にとって特別の価値があるものを失うことを指す。仕事一筋の人生を送ってきた人にしてみれば、地位や職を失うことが、自分の全存在の否定につながりかねない。ただし、個々の体験はすべての人にとって同じような打撃になるわけではなく、その人その人にとっての意味をよく考える必要がある。
 (8)重症の身体の病気にかかる:重症の身体疾患にかかることが人生の意味を大きく変化させ、自殺の危険を高めるきっかけになる場合もある。Aでは、うつ病に現われる身体症状について取り上げたが、実際に重い身体疾患にかかったことが、自殺のきっかけになることもある。
 (9)自殺を口にする:死をほのめかしたり、「自殺する」とはっきり打ち明けた場合には、自殺の危険は非常に高くなっている。話をそらしたり、批判をしたり、安易な励ましをすることは禁物である。まず、真剣にその訴えに耳を傾けることが自殺予防の第一歩になる。
 (10)殺未遂におよぶ:自殺未遂にまで及んだ場合は、緊急事態が発生する危険が目前にまで迫っている。その時は幸い命が救われたとしても、再び同じような行動に出て、実際に自殺によって死亡してしまう危険がきわめて高い。以上のようなサインに気づいたら、直ちに専門家による治療に結びつける必要がある。怖いのはこのような問題を抱えたことではなく、問題に気づかずに放置するうちに、取り返しのつかない悲劇が起きてしまうことなのだ。

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